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 私の授業づくり 


筆者
人文学部日本語日本文化学科
教授 岡本 聡

 

 

人生において文学を読む意味とは

学生たちは何か目的となるモチベーションがないと、やる気が起こらないということを痛感したことがある。以前、短期大学の一般教養の学生に、「私たちの人生にとって文学って何か意味があるの」と言われた時である。このことが自分の中で大きな言葉となって突き刺さっている。今なら、あの時の学生にもう少しマシなことを言ってあげられたかもしれないなと思う。文学を読むという行為は、他人の体験を自分のものとするものであり、人生の岐路に立った時、その他人の体験が自分の選択に必ず影響を及ぼすものと考えている。

 

今は、授業で江戸時代の崩し字を読んでいるのだが、明治以前の崩し字を読むためのモチベーションを必ず提示することにしている。これは、九州大学名誉教授の中野三敏先生の受け売りではあるが、江戸時代以前の本のリストである『国書総目録』(岩波書店)の1%も活字になってはいないということである。つまり、日本文化や日本文学が書かれた、日本人としてのアイデンティティーをたった1%の本から語っているということに他ならない。しかも、これを読むことができる人は社会人を含めて約3,000人、日本人の総数を1億人とすると0.00003%である。そして、その中に書かれている内容も、メンデルよりも79年も早くペットのネズミの育て方という経験則から結果的に隔世遺伝について記している『珍翫鼠育草』などといった本があったり、ケインズよりも早い時代に仮想経済の走りのようなことをしていた事を記したものもある。慶長金を35%削って元禄金を作り、政治的に同じものとすることによって500万両の資金を作ってしまった荻原重秀という勘定奉行の事である。あるいは、本居宣長の、この世にあるものはあやつり人形であり、別次元から操られているという発想は、この世を三次元立体映像(ホログラム)と捉えるデビッド・ボームの発想に近似している。このように崩し字を学ぶ意義を提示し、モチベーションを持たせるのが、授業づくりにおいて私が最も気を遣っているところである。


logo No.147 (2020年1月)掲載
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