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 私の授業づくり 


筆者
人文学部
助教 杉本 英晴

 

 

「固定的」な知能観に迫る

学生には、現実場面で起こるさまざまな困難を自分自身の問題として受け止め、専門的な視点からその現象を理解した上で、対応方法や支援・教育方法について考察・実践する力を身に付けてほしいと考えています。そこで、まずは基礎となる授業内容の理解を促すべく、教授方法を工夫するように心掛けてきました。学力や授業態度といった目に見える指標からでも、受講学生の理解度の差が大きく開いていることをしばしば感じます。そのため、授業ではできる限り理解度レベルの異なる学生の理解をそれぞれ促すことができる工夫を考え、導入してきました。

 

こうした工夫が功を奏しているのか、授業内容への全体的な理解度レベルは年々高まっているように感じます。ただその反面で最近非常に気になるのは、授業内容を理解することで満足しているように見える学生の存在です。理解した知識を応用して自分の日常生活を「豊か」にする方法を考えてほしいのですが、学生が授業内容を批判せず素直に受け入れているとも見て取れる状況に、私の教授方法の至らなさを痛感させられる毎日です。

 

そうした学生に大学での学業に対する目標を尋ねると、多くが「単位を取得すること」と答えます。Dweckによれば、成績などで自分の能力の評価を得ることを志向し、悪い評価を避けようとする目標(遂行目標)を持つ子どもは、自身の能力に自信がないと無気力に陥ること、さらにその背景には自分の知能や能力は変化しないという信念を有していることを指摘しています。つまり、自身の知能や能力は増大しないという信念を有しているため、自身の能力を高めるという目標(学習目標)を掲げることは難しく、授業内容をただ理解することで満足し、批判的な態度で授業に臨むことができないと考えられます。しかし、学生の知能は増大するという信念を強く抱いていた私は、そうした信念を学生に無意識的に投影し、「増大的な知能観」を前提とした教授方法を展開していたのです。

 

現在は、教員から確認しやすい学生の理解度レベルを考慮しつつ、容易には確認しづらい学生の「固定的な知能観」という信念そのものに働きかける工夫を検討しています。今後も自分の教授方法を少しでも改善し、学習目標をもつ学生を一人でも増やすことで自律的な授業文化を形成していければと考えています。
引用:Dweck, C. S.(1986). Motivational processes affecting learning. American psychologist, 41, 1040-1048.


logo No.131 (2016年1月)掲載
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