魅力ある授業づくりのために 中部大学広報誌から

中部大学の取り組み


私の授業づくり大学広報誌から


中部大学 大学企画室高等教育推進部ホームページ



 私の授業づくり 


筆者
工学部
電気システム工学科
准教授 長谷川 勝

講義の原点は高度な制御性能にあり

 

4月初め、私に原稿執筆依頼が送られてきた。授業づくりに関して教育ポリシーや独自の工夫を執筆せよとのことであるが、教育経験の浅い私にとってはまだ探索中の課題である。おそらく非才な私に正解は見つらないとも思うのだが、これを機会にこれまで実施してきたことを振り返ってみたいと思う。

 

私の研究領域は、制御工学とパワーエレクトロニクスである。制御工学を基盤にして、電気自動車や冷暖房機器、一般産業や電力分野に至るまで幅広く利用されているパワエレ機器を賢く動かそうというのである。中でも私の興味は、機器のばらつきや外乱に対して動じない制御系の設計(これをロバスト制御と言う)と、大きな特性変動を有する制御対象に対しては、これに合わせる可変制御系の設計(これを適応制御という)にある。そして、両者を巧みに融合させて、より高度な制御性能を実現するのである。

 

振り返ってみれば、私の講義はここに原点があるように思う。大切な受講生を制御対象と称することをお許しいただければ、この制御対象の変動や外乱(=遅刻、私語、集中力の欠如など)に対しては決して動じない制御器(=学習目標、程度)が私のスタイルである。強いて言うと、ちょっとだけ制御ゲインをあげて(=大声を出して)変動の影響を抑え込む(=叱り飛ばす)ことはしている。いわゆるロバスト制御である。ただし、この方法は初回を含めた数回の講義でのみ効果的である。そこで、少しずつ制御器を制御対象に合わせていく。受講生の表情をよく見、その目線などを教師信号に制御器(=講義方法、受講生との心理的距離感、そして私自身)を調整していく。適応制御である。この組み合わせが適切にいったとき、受講生のパフォーマンスが予想以上の伸びを示す、と信じている。ただし、過調整は逆効果である。

 

受講生を目的の状態に導く責任は制御器である教員にある。受講生は間違いなくこの制御器を見ている。魅力ある講義には、制御されたくなるような高度な制御器設計とその絶妙な調整が必要ではないだろうか。11年目にして少しだけ見えてきた私なりの制御戦略である。ただし、年度をまたぐ制御対象の変動は私の予想を大幅に超えており、制御器設計の可解性も不明である。ダイナミックな適応制御は一般に危険 である。この難解な課題は教員にとっての新たな楽しみと考えることにしよう。

 

logo No.104 (2011年6月)掲載
戻る

Copyright © Chubu University   All rights reserved.
中部大学ホームページ