幸友23
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 今、人の心が弱っていると感じます。心が弱るという状態には、大きく分けて二種類あります。一つは、精神的な病を患っている状態。この場合には、医学的な治療が必要です。もう一つが、考え方がネガティブに偏っている状態。特に、日本人はマイナス思考に陥りやすい民族だと思います。たとえば、徳川家康の有名な遺訓、「人の一生は重荷を負て遠き道をゆくが如し」に、私たちは共感します。人生を辛く耐え忍ぶものだと考えているから、心に響くのです。しかし、世界を見渡してみれば、明日がどうなるかわからない状況下でも楽しげに暮らしている人がたくさんいます。なぜ、日本人は明日の心配ばかりして生きているのでしょうか。 その理由に、日本は非常に災害の多い国であることが挙げられます。日本列島に人類が定着したのは、約3万年から2万5千年前。その間、百年に一度の自然災害は単純計算で250回起きています。そのような環境下で生き残るためには、常に最悪の状況を想定し、備えておかなければなりません。楽観的な人間は生き残れなかった可能性が高いのです。2万5千年を生き延びた日本人が、まだ起きていないことを予測して不安になるのは当然ではないでしょうか。しかし、物事をネガティブに捉える私たちの遺伝子が今、逆境にある日本の社会を閉塞させてしまっています。起きる出来事をネガティブに捉えれば、人生は楽しくなくなります。どんな物事にもプラス面とマイナス面があるもの。本能的にネガティブに考えがちな状況でも、客観的に眺めてみれば、必ずしも辛いことばかりではないはずです。まずは、そのことに気づいてほしいと思います。 人間が前向きに生きていくために必要な力は三つあると思います。一つは、精神の力。先ほどお話したように、ネガティブな状況下で物事をポジティブに捉えられるように考え方を鍛えることです。あとの二つが、お金のマネジメント力と学ぶ力。特に、マネー―コロナ下では、気持ちも行動も萎縮しがちです。―ネガティブ思考をポジティブに変えるコツはありますか?12ウィズコロナ時代に効く前向きな思考の鍛え方今回のテーマ現代教育学部長入学センター長 さの みつる佐野 充教授名古屋大学名誉教授。理学博士(名古屋大学)。名古屋大学大学院理学研究科化学専攻博士課程満期退学後、名古屋大学助手、講師、助教授を経てスタンフォード大学客員研究員、帰国後、教授。同大学情報文化学部長、図書館長を歴任。2015年より中部大学。今回お話を伺った方長引く新型コロナウイルスとの闘いに、気持ちが沈みがちな昨今。社会経済活動の回復に向けて、前向きに挑戦し続けるモチベーションをどのように保てばよいのでしょうか。困難な状況をポジティブに捉える考え方について、現代教育学部長・入学センター長の佐野充教授にお聞きしました。25

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