幸友23
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 愛知県美術館を皮切りに日本6都市を巡る「ライデン国立古代博物館所蔵古代エジプト展」。中野教授は、この展覧会の監修を務めています。「三千年も続いたエジプト文明がどのようにして起こったのか、その始まりを探っています」。これまで幾度となく現地でピラミッドや神殿を調査してきた中野教授は、サッカラにあるエジプト最古といわれるジョセル王の階段ピラミッドの調査にも携わっていました。発掘されたものがいつ頃のものかどのようにわかるのかという問いには、「象形文字を読むことでわかりますし、壁画に描かれた人物や彫像のスタイル、色の使い方など分析する要素はたくさんあります」とのこと。ただ、大切なことは、今の世の中とどのようにつながっているのかを考えること。「暦や建築、天文学など多くのことがギリシャ・ローマを通じて世の中に影響を与えているように、物事には必ず始まりがあります。そういったことを解き明かしていく上で大事なことは、必ず元の資料にあたり、当時の人びとの気持ちやものの考え方に立って徹底的に観察し、考え抜くこと」だと言います。 中野教授は近年、物の本質を捉えた色や形などのデザインの研究に力を注ぎます。「古代エジプトの職人たちが物をつくるとき、選ぶ石材の色や模様、形に意味を持たせています。また、私たちは情報を伝えるために文字を書きますが、古代エジプトの識字率は1%未満。つまり、当時文字を書くということは呪術的な何かを実現するための手段として使われていたのです」。文字の形はもちろん、赤は太陽、緑は再生、青は水といった文字の色を決めておくことで意味を込めていたそうです。私たちが使う漢字が、絵からつくられた文字であるように、こうして形や色に何か意味があるのではないかと考えるのは、日本的な発想だと言います。「王にしか使えないデザイン、王の持ち物にしか描かれていないデザインなど、現在ではいくつかの文様の意味を特定できています。それをさらに広げていけば、さまざまな出土品の意味がもっと深くわかっていくはずです」。中野教授の時空の旅は続きます。                 なかの ともあき国際関係学部 国際学科 中野 智章教授エジプト文明の始まりを調べて、現在、そして未来を見通す。階段ピラミッド(サッカラ)の調査©Rijksmuseum van Oudheden(Leiden, the Netherlands)ライデン国立古代博物館所蔵古代エジプト展にて一番の始まりに戻って細かく見ることの重要さ。色や形などのデザインに込められた意味を探る。古代エジプト文明の盛衰と近代ヨーロッパ社会に与えた影響エジプト学、考古学専門分野研究テーマエジプト学21

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