幸友23
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 数個から数百個のモリブデンやタングステン、バナジウム等の金属原子が酸素原子と規則正しく配列して構成される分子状金属酸化物クラスターを「ポリ酸」と呼びます。「金属と酸素が組み合わさったゴロっとした塊のようなものです」と平易に説明してくださった石川教授は現在、光化学反応を用いたポリ酸の合成を行っています。「金属がたくさん組み合わさった塊のため、いろいろなことができる機能を持つことがわかっています」というように、ポリ酸は触媒、磁性、発光などさまざまな優れた特性を示すといいます。「溶液中で作られるポリ酸は、pHの加減や温度によって構造が大きく変化しますが、最終的に一番安定した形で固まります。その形のまま結晶化する条件を探しています」。その微妙な条件の変化が結晶化に影響するため、条件をみつけるのが難しいところ。石川教授は、そうして結晶化したポリ酸を単結晶X線構造解析で分子間の距離や配列を調べ、物性評価まで行っています。 中でも石川教授が進めているのは、ポリ酸を触媒として用いた研究。ナイロンの原料となるアジピン酸を生成するための「触媒として機能するポリ酸」を合成しています。「現在、アジピン酸は工業的合成法では酸化剤に硝酸を使いますが、その際、環境汚染物質でもある窒素酸化物が発生してしまいます」。そこで石川教授が着目したのが、窒素酸化物を副生しない過酸化水素を酸化剤に用いた酸化反応を促進させる働きを持ったポリ酸。過酸化水素を使用することで、とても効率よくアジピン酸を生成でき、副生成物が水だけという極めて安全な方法を見つけました。「ポリ酸以外に余計なものを入れていないため、アジピン酸のみが生成され、分別したり洗浄したりする手間もありません」というメリットも。ただ、アジピン酸の原料やポリ酸に使用する金属が高価なため、コスト面が課題とのこと。「今後はよりシンプルなプロセスで進行する触媒として機能するポリ酸を作りたい」と話す石川教授。持続可能な社会の実現を目指す近年の潮流が、環境に配慮した研究の追い風になるかもしれません。                 いしかわ えり工学部 応用化学科 石川 英里教授触媒として機能するポリ酸の合成とその高機能化を目指して。単結晶X線構造解析でポリ酸の詳しい構造を解明。シンプルなプロセスで進行する触媒を目指す。ポリ酸を触媒に用いた環境に優しい酸化反応系の開発無機化学、溶液化学専門分野研究テーマ研究室訪問シーズ紹介無機化学酸化剤である過酸化水素に研究室で合成したポリ酸を加えることで酸化反応を活性化させることを確認した。■過酸化水素を酸化剤に用いたアジピン酸合成法19

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