幸友21
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うか。生活にも食べ物にも困らない、いわば平和ボケが蔓延しているようにも感じます。それに、日本は「育てる」ことにあまり熱心ではないように思います。皆さんが所属する「幸友会」は、知識を育てる、人間を育てるといったことをスローガンとされています。しかしながら、皆さんはそれを実践していますか。自分のお店や会社を育てていますか。地域、社会を育て、国を支えていますか。今一度、真剣に考えてみてください。何かを「育てる」ためには、先に述べた読解力や観察力のほかに、想像力、分析力、そして洞察力が必要です。そうでなければ、人間は正しい判断ができません。とりわけ人を育てることは本当に難しいことです。今は家庭では親がどんどん甘くなっていて、組織ではパワーハラスメントを怖れて厳しくできない世の中になっています。教わる、教えることに多少の厳しさは付き物です。やさしいだけでは指導はできません。相手のために良かれと思って教えるわけですから、その根底にあるのは愛情です。愛情があれば伝わると思うのですが、今の若者がなかなか理解できないのは非常に残念でなりません。 私はアウトサイダーから見た日本を、総合点で世界一の国だと思っています。欠点がないとは言いません。欠点がない国なんて皆無です。問題はプラスとマイナスどちらが勝っているかです。日本に統治されていた時代の台湾の話になりますが、植民地であった50年ほどの間、日本人は道路、鉄道、ダム、学校などを全島津々浦々に作りました。文化果つるところと言われた台湾の荒れ地を緑豊かにし、水路を確保し、二毛作ができるようにしたのは日本の技術のおかげ。誰も好きで植民地になったわけではないけれど、日本がもたらした光と影を比べてみると、光の方が勝っているのです。日本は海に囲まれて気候が穏やかな地理的条件に加え、勤勉で真面目、ルールを守るといった素晴らしい民族性を持っています。それなのに、日本人は感謝もせずに文句ばかり言う人が多すぎます。どうして世界一の国であることを認めないのでしょう。もっと誇ってもいいはずです。このままだと近い将来、世界一ではいられなくなります。人間は感謝すべきところは感謝し、肯定すべきところは肯定してもよいと思います。私は台湾からたった一人で来日し、日本という社会に受け入れてもらえたからこそ、この歳まで生きてこられました。だから日本のために自分は何ができるかを常に考え、日本の社会にお礼奉公をしています。私は日本を愛している、と胸を張って言えます。ですから皆さんも、日本に感謝する心を持ち、国のために自分ができることを考え、行動しようではありませんか。そのためにぜひとも読解力、観察力、想像力、分析力、洞察力を高めることを意識し、自分ができる範囲で一つひとつ実行してくださることを念じております。金 美齢Profile1934(昭和9)年生まれ、台北出身。1959(昭和34)年に来日し、早稲田大学第一文学部英文科入学。1971(昭和46)年に早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位修了。多くの大学で講師を歴任、早稲田大学では20年以上にわたって英語教育に携わる。現在は主に評論家として活動。テレビをはじめ、新聞・雑誌など各種メディアにおいて、家族・子育て・教育・社会・政治等、幅広い分野でさまざまな提言を行っている。国のために自分は何ができるか。34

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