幸友21
26/44

は生きているという現実を直視しなくてはなりません。 そうですね。新しい発想や創造は人間にしかできません。それから、AI化したところで儲からない仕事も機械化されません。莫大な予算を使っても用途がなければ無駄ですから。しかし、それ以外の仕事の多くは、文句も言わずに長時間低コストで働いてくれる機械に置き換わることでしょう。 ただし、仮に現在の6割の仕事がAIに奪われたとしても、残りの4割を人間が奪い合う事態になるとは思えません。終戦時の何もない時代に、今日の日本のような仕事に溢れた社会が想像もできなかったように、これまでにはない職業が新しく生まれてくるのではないでしょうか。 だからこそ、人間の内面が注目されている気がします。最近、座禅を始める人が増えていることにお気づきですか。我々は何となく時代の流れを察して、AIでは補えない精神的な世界を追求しようとしているのではないでしょうか。多くのことが機械に置き換えられたとしても必ず残る人間の精神世界は、日本や東洋が得意とする分野でもあります。明治時代に西洋的な合理主義を採り入れて以降、効率を求めて日本人が捨て去ろうとしてきたことが、改めて見直されているのです。 この世界的な傾向は、一見して無駄に思えることこそが独創性や新しい発見につながるということに、人びとが気づき始めた証だとも言えるでしょう。近年の日本人は、工業的な発展に役立つことばかりに価値を置き過ぎています。斬新なひらめきには、ビッグデータから導き出されることとはまったく別のルートによる発想が必要です。高い山に登る時には、まっすぐ上には行かずに回り道をしますよね。そうすると高みに出て、今までにはなかった高い視座が得られます。このように、あえて回り道をして俯瞰する力を身につけることが、独創的な発想力を磨き、これからの企業を支え、諸外国に負けない国力を生み出すのではないでしょうか。今の自分の持てる力以上を目指して努力することは、決してAIにはできないことなのですから。足達義則先生の 今の若者は、「知識の幅、興味対象の幅が狭い」と感じている方が多い中、AIプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の責任者である新井紀子氏が本書で学生の実態を浮き彫りにしている。AI技術の進展で、「10年から20年後に残る仕事なくなる仕事」が発表されてから5年以上経過したが、これに対処する施策は出されていない。新井氏は、中高生を対象に基礎的読解力を調査するためにリーディングスキルテストを作成・実施し、「AIにできない仕事ができる人材」が育っていないと憂慮している。これまでの教育は、AIで代替できる人材を養成してきたと看破し、これからは人間にしかできないことを考え、実行に移していくことが、未来を切り開いていくことができる唯一の道であると警鐘を鳴らしている。本書の指摘を真摯に受け止め、「意味を理解する人材」の育成に教育の舵を切っていかなければならない。―新しい仕事の創造は、人間にとっても難しいことです。「AI vs. 教科書が読めない 子どもたち」 新井紀子著 東洋経済新報社―AIに向いている仕事と人間に向いている仕事の住み分けが必要ですね。25

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る