幸友21
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行動できる自律型のロボットです。いろいろなことを自ら学習して汎用化できる、人間に近い存在だと言えるでしょう。現在、私たちと対話できる音声認識アプリや、癒しをくれるペットロボット、対局ができるゲーム専用ロボットは、また違う存在です。このように反応すれば人が喜ぶ、ゲームのこの局面ならこういう手を打てば勝てるなど、人間が経験した過去の膨大なデータを整理して結果を出しているのです。時に人間がAI技術に負ける理由は、その膨大なデータ量に人間が敵わないからであり、AIが「この手なら勝てる」と考えている訳ではありません。 ディープラーニング(深層学習)と聞くと、コンピュータが深く学習して人間のように考えるのではないかと想像してしまいますよね。ディープラーニングは機械学習の一種であり、人間の脳神経回路のメカニズムを模したニューラルネットワークの発展形です。「学習」とは、過去の遺産を学ぶことですが、機械にとっては、人間が経験した過去のデータを人間が与えた指示信号によって整理することです。ところが我々人間は、ほんのわずかな情報しか得られなくても学びを通して判断したり新しいことを作り上げたりすることができる。この差は、私たちにも整理のつかない感情や創造性によるものです。この整理のつかない部分を、コンピュータを構成する要素である数字に置き換える方法は見つかっていません。 はい。今年出版されたベストセラー『AIvs. 教科書が読めない子どもたち』にも、「現在のAIは論理的に文章を読んだり考えたりすることはできません」と記されています。ただ、いずれ全く違うアプローチから少しずつ新しいことができるようになる可能性はあると思います。たとえば、日本の研究者には、ニューラルネットワークの一種として、「自己組織化」という機械学習法を生み出した方がいます。私自身も、その自己組織化を試みてみたところ、人間が指示する信号なしにコンピュータが勝手に情報を整理してネットワークを次々と形成することがわかりました。機械でも、ある種の判断と呼べるようなことができるようになるのです。しかし、それが可能になると、別の問題が生まれます。機械に肩代わりさせることのできる仕事が増え、人間にしかできない職業はさらに狭まることでしょう。 パターン化されている仕事は必ずAIに置き換わるでしょうね。たとえば現在、塗装用のロボットアームは、非常に細かい部分まできれいに仕上げることができます。熟練工ならこうするという手順をプログラミングして動かしているだけですが、いずれはもっと上手く塗る手法をロボット自身が見つけ出すかもしれません。 今、日本のほとんどの工場では、ロボットだけに任せることなく、熟練工も育てています。作業できる人間がいないと何らかの困った事態が起きるであろうという危機感によるものです。しかし、その危機感が幻想ではないと言い切れるでしょうか。ロボットができる作業を人間に任せている間に、AI技術で日本は後進国になってしまうかもしれません。 国内のインフラ整備が遅れていた中国では、固定電話の普及を一足飛びにして、衛星を使った無線電話が急速に広まりました。下地が何もないからこそ、いきなり最新技術を採用できたのです。このように、日本がコツコツと積み重ねた努力を越えて、想定外の最新技術が生まれる世界に私たち―どんな仕事がAIに代替されるのでしょうか。―当面、AIが人間と同じように考えることは無理なんですね。―ディープラーニングによって機械も考える能力を得たと勘違いしがちです。人間にしかできない仕事は、人間にしか生み出せない。24

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