幸友21
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 内因性感染症とは、すでに体内あるいは体表面に定着している微生物によって引き起こされる感染症のことで、高齢者において特に問題となるのは帯状疱疹と結核です。 帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスによって起こる感染症です。水痘(みずぼうそう)はこのウイルスの空気感染や接触感染によってほとんどの人が小児期に発症する軽症の感染症です。ウイルスはまず気道粘膜で増殖し、その後血流に乗って全身に広がり皮膚に水疱を形成しますが(図1)、通常は軽症のまま自然治癒します。しかし、このウイルスは治癒後に全身の神経節(三叉神経節や脊髄後根神経節)に潜伏するという性質があり、加齢(50歳以上)、免疫抑制状態、精神的ストレス、外傷などを誘因としていずれかの神経節で増殖を再開し、帯状疱疹を発症することがあります。帯状疱疹は当該神経節の支配領域の皮膚に紅斑、水疱を生じるもので(図2)、しばしば激痛を伴いますが、抗ウイルス薬による治療が可能です。ただし、治癒した人の10%前後は後遺症として帯状疱疹後神経痛(PHN)を発症し、長年にわたってさまざまな種類の痛みに苦しめられることが知られています。昨今の高齢者の増加にともない、帯状疱疹やPHNの増加が懸念されますが、小児の水痘予防に用いられていた生ワクチンが帯状疱疹の予防用としても有効であることが判明し、2016年3月、「50歳以上の人への効能」が公認されました。一方今年の3月には、新規のサブユニットワクチンが認可され、まもなく接種可能となる見込みです。 結核は結核菌の空気感染によって起こる感染症ですが、健常人であれば発症する確率は10%以下です。発症は肺での増殖で開始され、結節が作られます。肺以外にも、リンパ節、脳など身体の他の部分に病変の影響がおよぶことがあります。1950年代までの日本社会には結核菌が蔓延しており、その当時までに感染した多くの人々がすでに高齢期をむかえています。高齢になって免疫機能が衰えると、潜伏感染していた菌が再び活性化して肺結核を発症することがありますので、高齢者の結核の増加が懸念されていますが、現在は医療技術の進歩のおかげで、死亡率はそれほど高くありません。 ワクチンで予防できる感染症はごく一部ですが、接種しておくことが大切です。免疫機能の低下は、加齢のみでなく、栄養不良、睡眠不足、運動不足や過剰なストレスなどからも生じます。食事・睡眠・運動などの生活習慣を整え、また、ストレスのない暮らしを心がけましょう。また、環境中のさまざまな微生物の感染を防ぐために、加熱不十分な肉類の摂食を避け、外出中および帰宅後の手洗いを励行しましょう。動物との過度な接触も控えた方が無難です。(図1)水痘の皮膚病変(図2)帯状疱疹の皮膚病変22

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