幸友21
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 ヒトの免疫機能は20歳前後がピークであり、40~50代ではその50%、70代では10%と急速に低下していくと言われています。免疫機能が低下すると、病原微生物が体内に侵入して増殖することが容易となり、さまざまな感染症にかかりやすくなります。そのなかには致死的な疾患、あるいは発症することにより長期にわたって生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)に支障をきたす疾患が含まれます。 高齢者が重症化しやすい感染症の代表的なものは、A型やB型のインフルエンザウイルスによっておこるインフルエンザです。日本では毎年12月から3月にかけて流行します。インフルエンザに関連する死亡例のほとんどは65歳以上の高齢者であり、日本では毎年1000人前後が亡くなっているとされています。合併症(細菌性肺炎)を起こすと重症化することが多く、特に慢性的な基礎疾患を持っている人は感染しないように注意することが必要です。細菌性肺炎の原因となる主な細菌は、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、およびインフルエンザ菌(無莢膜型)で、肺炎球菌に対してはワクチンによる予防が可能です。65歳以上の高齢者はこの肺炎球菌ワクチンとインフルエンザウイルスワクチンが定期接種(原則として無料)の対象となっています。接種後1~2週間経過しないと効果が現れないので、毎年の流行前(10~11月ごろ)に接種しておくと万全です。 インフルエンザ以外に高齢者が重症化しやすい感染症は、レジオネラ菌による肺炎(大型空調施設の冷却塔や家庭用加湿器などの水中で増殖した菌を含む飛沫が感染源)、ノロウイルスによる胃腸炎(感染した調理人の料理、ウイルス保有二枚貝の生食などが原因)、カンピロバクター属菌による胃腸炎(牛肉などの生食が原因)、サルモネラ属菌による胃腸炎(鶏肉などの生食が原因)、E型肝炎ウイルスによる急性肝炎(鹿肉や豚肉の生食が原因)があります。一方まれではありますが、イヌやネコに咬まれたり引っ掻かれたりして発症するカプノサイトファーガ菌感染症は致死率が高く、注意が必要です。また、マダニに咬まれて発症するSFTSウイルス感染症も死亡率は高く、2017年にも東海北陸地方以西で90名が発症し、そのうち8名が死亡しています(感染した野良ネコに咬まれて感染し、死亡した例もあります)。高齢者と感染症中部大学 生命健康科学部 生命医科学科 教授 鶴留 雅人つるどめ まさと921

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