幸友21
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 腸内細菌研究の第一人者である牛田教授。野生動物や家畜の腸内細菌の謎を解くため世界各地を飛び回り、ゴリラやチンパンジーなどのフンから菌を分離培養しています。ただ、「近年は就職に役立ちそうな研究を選びたがり、それこそアフリカへ行ってでも研究したいと思う学生はほとんどいません」と世の中の傾向を憂います。その一方で、「手の届く範囲のものは既に研究済みであることが多く、わかる範囲で研究していても新しさがない」と研究の本質に迫る言葉も。そんな牛田教授が育てたい人材は、フィールドサイエンスの技術を身につけるとともに、実験室で生化学や細菌学などの緻密な仕事ができる人材。それこそ“オリジナリティが高い人”だと言います。「新しい菌を発見するチャンスは探し方次第。食品業界において他を圧倒するようなヒット商品は、後追いで普通にやっていても生まれません」。企業人として常に心に留めておくべき言葉が印象的でした。 牛田教授がもう一つ進めていること、それは「野生動物の保全」です。動物の保護には人間の管理下で増やして自然に返す方法があります。コウノトリやトキもその一例。肉食の鳥の飼育はそれほど難しくないけれど、コアラのようなユーカリの葉しか食べない草食動物はエサの確保も容易ではありません。また、コアラは腸内細菌でユーカリを解毒する特異な構造を持っていて、牛田教授が研究しているライチョウにも似た構造があると言います。「でも人の手で飼育していると、腸内環境が変わってしまう。動物を本来の生息域に戻すなら、エサを解毒する菌が腸内にいなければ自然界で生きていけません」。牛田教授が考えているのは、野生での生存を支えていると思われるバクテリアを研究して、動物園で暮らす動物の次の世代、あるいはその次の世代から野生に復帰させる準備です。「今こそ動物園の存在意義を地球レベルで考えるべきとき。先の長い話ですが大事なことです」。実例として成功すれば時代を動かす大きな流れになるはず。何十年も先の未来を見据えた研究は既に始まっています。創発学術院/応用生物学部 牛田 一成教授国内外を飛び回り、腸内細菌の謎を解明する。牛田教授が次代を担うホープと評する、ともに研究する土田さやか特定講師。オリジナリティが高い人材を育成したい。動物園の存在意義は?遠い未来を見据えて続ける研究。野生動物や家畜の腸内細菌動物生理学、腸内細菌学うしだ かずなり研究テーマ専門分野19

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