幸友21
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 日本でも有数な窯業地の瀬戸や美濃。それゆえ、愛知県や岐阜県には陶磁器に関する美術館が数多く点在する。昨年の秋に名古屋市東区で開館した横山美術館もその一つだ。ただ、陶磁器を展示する美術館の中では少し特異と言えるだろう。その最大の理由は、日本から世界各地へ渡った“輸出陶磁器の里帰り品”を中心に展示していることにある。 名古屋市東区といえば、かつては輸出陶磁器の絵付け業の中心地で、今も江戸から明治、大正へと続く、名古屋の近代化の歩みを伝える貴重な建物が多く残る。瀬戸や美濃から調達した白素地に絵を付けていく上絵付けは、ここ東区界隈で行われていた。陶磁器を輸出するために、当時は陸路などで横浜や神戸の港へ運んでいたが、貨車の連結や積み替えの際に割れてしまうこともあった。ならば一番近い海から輸出しようと、明治40年に名古屋港が開港した。陶磁器産業の興隆が一つの港を開いたのだ。 横山美術館は、1~3階が常設展示室、4階が企画展示室、5階が多目的ホール・図書コーナーになっている。所蔵点数は約3千点。その全てが、美術館の理事長であり、(株)プロトコーポレーションの代表取締役会長でもある横山博一氏のコレクションだ。きっかけは、1998年に出合った一つの花瓶。その花瓶は、約120年前のオールドノリタケ。横山氏は、当時の日本の製陶技術の粋を尽くして職人が作り上げたその美しさに魅了され、「この素晴らしい技を現代の日本人にも見てほしい」という思いから収集を始めた。それから20年の月日が経ち、かつて絵付けを行っていたこの東区の地に美術館を開館したのである。 常設展および企画展で展示されるのは約650点。年に2~3回開催する企画展に加え、常設展も入れ替える。3階の展示室ではオールドノリタケの銘品の数々を見ることができる。オールドノリタケはまさに名古屋絵付けの代表であるが、その技法の特徴は、華やかな金彩、金を立体的に盛り上げる金盛りにある。それらを目の前にすれば、誰もがその美しさに思わず感嘆の声を効率や利便性が求められる現代社会、とかく手間や時間をかけないことを重要視しがちです。しかし、陶磁器づくりに心血を注いだ明治・大正期の職人技を見ていると、手間ひまをかけて作ったものこそ、人の心を動かすことができると感じずにはいられません。9横山美術館ひろいちきんさい立体的な装飾が特徴的な隅田焼。タピストリー白鳥風景図花瓶(オールドノリタケ)人の身長よりも高い有田焼。13

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