幸友20
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から一気に不景気のどん底状態へと陥ったのです。この最悪の経済危機に直面して、アメリカ政府が対策として打ち出したのが、「ニューディール政策」です。私は、この大恐慌時代のアメリカとニューディール政策の研究を続けてきました。 そもそもアメリカは、自由競争と市場原理の国です。歴史的に、政府が経済に規制や統制を加えることは極力避けてきました。しかし、大恐慌時代は景気回復の見込みが立たなかったために、アメリカ政府は競争をコントロールする法律や組織をつくり、市場に介入しました。これまでの自由放任主義的なスタンスから、はじめて規制や統制を大胆に強化する経済政策を取り入れたアメリカ経済の転換期、それがニューディールの時代です。 現在では、「戦争がなければニューディール政策はうまくいかなかったのではないか」という評価が一般的です。アメリカ政府は1930年代のニューディール体制下で、公共事業による雇用の創出や労働者を保護する社会保障の充実など、さまざまな施策を打ち出して改革を試みましたが、1930年代末、第二次世界大戦の勃発により軍事体制下に入りました。ニューディール政策によって整えられた労働体制は、そのまま戦争特需の体制に移行。戦時経済は非常にスムーズに回ってアメリカは軍事大国となり、再び繁栄の時代を迎えました。結果として、うまくいったのですが、実は政策としての効果ははっきりしていません。 現在ではすっかり色あせてしまい、かなりネガティブな評価しかされていません。1980年代、レーガン大統領は、「レーガノミクス」という規制緩和を進めました。ネオリベラリズムと呼ばれる新自由主義的な政策で、ニューディールの考え方を否定したものです。つまり、自由競争や市場原理を強化する流れになりました。競争には必ず勝ち組と負け組が発生します。結果として、勝ち組はどんどん豊かになり、負け組は失業する世の中になりました。ネオリベラリズムの一番の問題は、競争の結果として生まれた社会的弱者が見過ごされ、社会福祉や社会保障が軽視される傾向にあることです。しかも、自由競争や市場原理が行き過ぎた結果、2008年9月のリーマンブラザーズの破綻があり、ショックが広がって世界的な同時不況に波及しました。 「トリクルダウン理論」ですね。大企業を支援する政策を進めれば、利益がしたたり落ちて中小企業にも富が波及するという仮説です。しかし、この考え方は、大企業優位の目線であり、「強者の論理」だと思います。一方、研究を通して知れば知るほど、ニューディール政策は「弱者を見つめた政策」だと感じます。経済政策は、経済に働きかけてはいても、ダイレクトに人の生活や人生に影響を与えてしまうものであるがために、どんな政策も人の生活が重視されているものでなくてはなりません。大企業をもっと大企業にするような政策を進めれば、統計上はGDPが増大し、数字の上では早く成果を出すことができるでしょう。しかし、その統計の陰には、泣いている人や生活に困っている人が必ずいるはずです。社会の大部分を構成しているのは中間層以下を占める人なのですから、大多数に及ぼす影響を明らかにできる研究をもっと進めなくてはなりません。 中部大学の国際関係学部は、そのような研究の場として、非常にフィッ―大企業が豊かになれば社会全体が潤うという見方もあるようですが。―現在のアメリカでも、ニューディール政策の考え方は生きていますか?―ニューディール政策は成功したと言えるのでしょうか。どんな政策も、人の生活が重視されなくてはならない。26

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