幸友20
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 ひとつの食卓を囲んで家族と談笑しながら食べる習慣は、それほど古くからあったわけではないらしい。昭和初期、競り売りの声を記録したものがある。――このチャブダイ いいなーほんとにこんなのでご飯食べるといいなーここがダンナで ここは奥サン ここがガキ ここがバント(番頭)サン へへ おいしく仲よーくね…と言って4円から2円50銭まで落として行く(『モデルノロヂオ』1930年刊)。 街ではチャブダイを売り歩く人がいたらしい。チャブダイ(卓袱台)は脚の低い食事台で、ハンダイ(飯台)とも呼ぶ。膝を折ってすわる和式の食台である。後年、1970年代、DKスタイルのすまい方がふえて、テーブルと椅子で腰かける洋式の食事法になってチャブダイは減少したが。図Aはチャブダイのミニチュア。なつかしい昭和のグッズとして売り出された。この時期(大雑把に言えば1970年代)日本人の生活空間が変化したのである。旅先、村の粗大ごみ置き場で現物のチャブダイが捨てられていた。 今春、名古屋で『あじくりげ』誌の展示会が開かれたので立ち寄ってみた。創刊1956年から昨年2016年5月まで60年にわたる東海地域を中心で刊行された月刊誌の展覧会であった(図B参照)。私自身もこの冊子で拙文を掲載したことがあり、見ておきたいと思った。あらためて読むと、当地域の文学・美術家・料理家等、東西の知識人を交え、随筆・小説・詩・戯文あり、私どものような気ままな雑文・図絵も含め、ユニークな冊子であったと思う。 それにしても60年にわたる冊子は当時の筆者諸兄が意識するか、しないかにかかわらず、当時の食文化――その風俗・習慣を垣間見ることがある。たとえば名古屋には二種のカバヤキがある。ウナギのカバヤキとドカバ(ドジョウのカバヤキ)がある(『あじ・くりげ』16号1957岡本信也text by Shinya Okamoto日本の食空間11図A 「チャブダイ」のミニチュア模型図B 古書店で見つけた創刊号せ・・・17

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