幸友19
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—変化の激しい世の中の現状をどのように捉えていますか。市原 約40年間、金融の世界からたくさんの企業を見てきました。最初の30年間は日本銀行という立場から、今は故郷に戻り信用金庫の立場で中小企業の経営者や金融界を見ています。オイルショック、バブル崩壊、リーマンショックと経済のみならず、ここ数年は大きな災害も起こりました。そこで今あらためて、今後の社会経済構造を見据えながら、自分の信念を職員へ伝えなければと思っています。その一つが「縁」(人縁、地縁、血縁)の大切さです。日本の特徴でもある縁の社会が、再び求められてくると感じています。山下 私も教育界に約40年勤めていますが、この変化の中で若者が生きていくには「多様性」や「個性」が必要だと思っています。特に今のように人口が減少する時代は、個性をあらゆる方向から支え合うことが重要です。個を大事にすることは、多様性を大事にすることでもありますが、今までは画一的な知識を伝える教育を行い、一部分を切り捨ててきました。このことは社会にとっても損失です。これからの時代は、多様性によってすべてを活かすことが大事だと思っています。市原 かつて存在していた13行の都市銀行は、今は3つのメガバンクに集約されています。ただそれほど個性を感じません。一方で我々は地域に根差す金融機関ですから、地域の個性をつくらなければなりません。それは結果的に個性のある人材を育成することでもありますが、その上で不可欠なことは地場産業の進化と文化の存在です。たとえば美濃焼の陶芸家は、他の人とは違う作品をつくるという個性が求められますが、その作業の中にこそイノベーションの要素があると思っています。また京都には、オールドセラミックの技術を生かして、ニューセラミックの電子部品を製造する企業がありますが、これは、地場産業の中で要素技術として培い蓄積した技術を、時代の要請に応じて進化させることで発展したことを意味しています。さらに、いろいろな業種の人と接することで我々は情報を得ることができます。そうした情報で産業界へアドバイスをしたり、刺激を与えたりすることが金融機関の役割だと思っています。山下 かつての日本は、規格化された平均的なマンパワーで経済成長を遂げましたが、今はそういう時代ではありません。今は個の時代で、ようやく大学にも個性の時代が到来したと思っています。ただその個性は、存在する地域との共生関係で成り立ちます。つまり存立する場所の地理や歴史を振り返り、もう一度、大学として個性を実質化させるには、地域の特性を客観的な目で正しく見なければなりません。また、自らの目的を達成する意思の強さも必要です。市原 個も企業も目標を持つことが大事だということですね。人口減少社会の日本で求められているのは、一人ひとりの生産性を上げることです。企業の場合、達成したいことの目標ができると、新しいサービスや商品、付加価値が出てきます。つまり個性を出せば世界でも勝負ができるし、国内でも新しい需要を生み出すことができます。山下 どんな成功も最初は少数派です。日本の企業の歴史を見ればその通りで、人と違う生き様や個性的な価値観が成功を導くのであって、少数派を切り捨てない社会が重要です。市原 「出る杭を叩いてはいけない」と私もよく言いますが、出る杭を育てる風土が大事であって、我々が企業を見る目もそうでなければならないと思っています。—中部大学として目指している教育研究について教えてください。山下 失敗を恐れず、自分たちで必要な仕組み作りにチャレンジすることが重要です。その一つに「報酬型インターンシップ制度」がありますが、始めた背景には、大学の教育や環境だけでは社会に必要な大学生の質保証ができないという考えに達しました。私は、仕事が人を成長させると思っています。仕事とは何か、働くとはどういうことかを大学時代に知ることができれば、自分がどんな仕事に就くべきかの判断基準を持てるはずです。もう一つは、つくれば売れ地域と生きる企業と大学〜激動の時代に求められる産学連携の人材育成〜特集04

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