幸友19
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本で認可されている症状改善薬にはコリンエステラーゼ阻害薬とグルタミン酸NMDA受容体拮抗薬の二種類があります。コリンエステラーゼ阻害薬は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼ酵素の活性を阻害する結果、脳内のアセチルコリン量を増加させることで効果が発揮されます。その代表的な薬がドネペジルで、日本では1999年にアルツハイマー型認知症を対象に認可されて現在汎用されています。 一方、根本的治療の試みには幾つかありますが、注目されるのはアミロイドワクチン療法です。アルツハイマー病を引き起こすアミロイドβ蛋白を除去または無毒化できるアミロイドワクチンには大きな期待が寄せられ、2000年に世界発の能動ワクチンの臨床試験が開始されました。しかし、複数の被験者の剖検脳でアミロイドβ蛋白が消失していましたが、一部の被験者に細胞性免疫に関わるT細胞の活性化による脳炎が発症したために試験は途中で中止されました。そこで、T細胞を活性化させない受動ワクチン療法が目指されました。日本で開発されたアデノ随伴ウイルスベクターにアミロイドβ蛋白DNAを組み替えた経口ワクチン療法はその一つです。これは腸管免疫を利用するので副作用が少なく期待できます。 近年、食事や運動・喫煙・過度の飲酒、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病のライフスタイル関連因子が血管性疾患のみならずアルツハイマー病発症の危険因子でもあることが疫学調査結果などから分かってきています。特に、中年期レベルでの生活習慣病はアルツハイマー病の発症促進に影響していることが明らかなようです。例えば食事をみると、“過剰の危険因子”として高カロリー・高脂質・甘い物があり、“欠乏の危険因子”には魚・野菜・果物・葉酸があります。それ故、上記の危険因子があれば、ライフスタイルを見直し、生活習慣病をコントロールすることが認知症を予防する上で重要です。 最近、国立長寿医療研究センター(大府市)などのグループによる疫学調査研究が発表されました。これによると、高齢者6800人ほどを5年間追跡調査したところ5・4%に認知症が発症しています。発症リスクを判断できる13項目(表1)のうち、発症リスクの最大の項目は75歳以上の年齢でしたが、バスや電車を利用して外出したり、新聞を読んだり、スポーツ的活動をしたり、生活習慣を変えることは認知症発症の予防につながることが期待できる項目でした。 現在のところ、「こうすれば認知症にならない」という予防法は確立されていません。しかし、認知症の発症予防・進行抑制の上で、認知症になりにくい生活習慣をこころがけることの価値が高まっていると考えられます。認知症は予防できるか?おわりに24

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