幸友19
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 結婚式や地鎮祭、落成式など、さまざまな儀式で神様へ奉げられるお酒。このお酒を入れる特別な器が「盃」だ。小さいけれど神事には欠かせない重要なアイテムの一つである。多治見市は美濃焼の一大産地であるが、美濃焼にはかつて地域ごとに製品づくりを分業していた歴史がある。中でも市之倉は山間の地で交通の難所であったことから、なるべく少ない原料でたくさんのものを作ろうということで、小さくて運びやすい盃が特産品になったといわれる。そんな市之倉の地を象徴する盃をテーマとした美術館が市之倉さかづき美術館だ。 1階の展示室には、幕末・明治から昭和にかけて市之倉でつくられた磁器の盃がズラリと並ぶ。その特徴は非常に繊細な絵付けと薄さにある。照明が内蔵された展示台に乗せられた盃を上から眺めると、光が透けて見えるほどだ。中には、底の部分に女性の姿が浮かび上がる「透かし盃」なるものもあり、当時の大人の遊び心を垣間見ることができる。また絵付けも、現代にこの技術を継承した職人はいないといわれ、精緻な筆づかいで描かれた線の細さには目を見張るものがある。 展示エリアを進むと、時代の流れとともに盃にバリエーションが増えてくることがわかる。大正から昭和にかけて流行ったという盃と盃台のセットは、西洋のカップ&ソーサーを連想させる。一方、素地に丸い穴を開けて釉薬を流し込む「蛍手」と呼ばれる技法を用いて、ホタルが飛び交う様子を描いた盃はいかにも日本らしく、夏に使いたくなる涼しげな一客だ。またここには、市之倉産だけでなく、有田や九谷などの他産地の盃も展示され、市之倉の盃と比較して見ることができるようになっている。同じ盃でも土の違いによって醸し出される雰囲気や厚み、絵柄などの違い髪の毛よりも細い線の絵付けを得意としていた加藤五輔氏による作品。いちのくら仕事の延長で、あるいはコミュニケーションを深めるためにお酒を飲む機会が多い皆様へ。今回は全国的にも珍しい、館名に“盃”の名が付く「市之倉さかづき美術館」をご紹介します。盃でお酒を飲む機会は少ないものの、大切な儀式で使われる器、盃に注目しました。7市之倉さかづき美術館ほたるで13

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