幸友18
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と社会的な問題として、農村型社会から都市型社会へ移行したことで、伝統的な生活サイクルや食事の取り方というものがだんだん崩れてきたことがあげられます。つまり「食べる」ということについて、従来とは違う視点で考える必要が出てきたわけです。しかし、食の問題は考えれば考えるほど実は非常に難しく、深刻な問題であると思っています。 本質的なことを言えば、人間が知恵をつけたことに端を発するのですが、人間は自然を受け入れるのではなく、自然に働きかけるという歴史をたどってきました。そうして今に至り、今さら元に戻すわけにもいかず、自然とどう折り合いをつけるかが課題になっています。そしてもっと言えば、食べ物の問題は生態系そのものの問題と言えます。栄養とは簡単に言えば、必要なものを摂るということですが、それは言い換えれば、他の生き物とこれらを使い回すシステムです。糖やたんぱく質、脂肪やビタミン、全部ほかの生物からいただいています。つまり、生命体は生態系の中で互いに材料を融通し合って生きているのです。食物連鎖のピラミッドであたかも人間が一番上にいるかのように言われたりしますが、人類もただの生物であり、その中の一部に過ぎません。 栄養素の中には、私たちの体にどうしても必要なものがあります。それが必須アミノ酸。たんぱく質を構成している20種類のアミノ酸のうち、9種類のアミノ酸は体の中で合成することができず、外から摂取しなければなりません。では、なぜそのように摂取が必要なものと体内でつくれるものという区別が私たちの体にできたのでしょうか。それは、おそらく進化の過程で、摂取が必要なのではなく、体内でつくる必要がないほど簡単に手に入ったといえます。つまり逆の考え方で、どうしても外から摂取できないものを体内でつくってきたということです。人類が森の中で果実や穀物を拾って食べていた時代は、どんな栄養素が必要かなんて考えていません。やがて、人間は調理することを覚え、食を文化にして、農業や食料調達の技術を発達させてきました。それは、生物としての「食べる」ということから逸脱し、食べることが生物学的営みから、文化的営みへ変わっていったことを表しています。人間が野生動物として生きてきた時代から長い時間をかけて人工的な生活環境へと変化してきたのです。そうして自然環境の中で自然にできあがってきた人間の代謝システムが、人工的な環境の中で暮らすようになったことで、いろいろなところに穴があいていることに気付いたわけです。人類の文化の歴史から見て、とりわけ急激な変化はやはり産業革命以降ですが、生命の歴史で見れば、たかだか200年余りというとてつもない短い時間。その中で起こった環境や食、生活スタイルの変化に、私たちの遺伝子の進化は到底追いつくことができないのです。 もう一つ深刻な理由は、食の供給体制自体が産業化していることです。食が文化になり、今や文化を通り越して経済に、その経済も金融が支配する経済になっています。言ってみれば食の供給体制が経済活動そのものになっているわけです。戦後間もない頃までは、江戸時代と変わらないような手作業で農業を行い自給していた時代だったのが、それから数十年後、いつでもコンビニで簡単に弁当が買える―人間も地球上の生物の一種だと認識しなければなりませんね。―深刻な問題とはどのような点でしょうか。―環境の変化があまりにも急激であることが深刻さを増しているのですね。26

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