幸友18
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 「二人の気持ちを変化させるお見合い結婚の仲人、それが触媒です」。そう例える山本尚教授は、ルイス酸触媒の研究を中心に、多数の有用な触媒的有機合成反応を開発し、国際的に先導的役割を果たしてきた一人です。しかし、山本教授は「燃料電池、医薬品、農薬など、さまざまなものに不可欠な触媒ですが、グリーンなプロセスによる触媒はまだまだ足りません」と言うように、研究が未だ道半ばであることを強調しつつ、長年にわたり企業のコンサルを行ってきた経験から、今後の産業の発展や企業の成長のカギを握るのが新たな触媒の開発だと言います。「日本は科学技術の分野でいろいろなイノベーションを起こしてきました。でもすぐに他国に追随されてしまう。それは特許でカバーが可能な化合物の段階まで戻って考えていないからです。さらに、先を見据えて次から次へとイノベーションしていく人材を育てる体制をつくらなければなりません。“分子技術”はその体制づくりのための素地です」。分子レベルの制御を可能にした設計が、化学の発展、ひいては触媒を扱う企業にとっても生き残っていくための術と言えそうです。 また企業が画期的な触媒を開発するためには、10〜15年先の明確なイメージを持つことが大事だと言います。「研究を続けて圧倒的に有利なものを作り上げることができれば、成長が見えてくる。つまり、オンリーワンを探し出すこと。他社が真似できない技術を化学で持てるかどうかで成長できるか否かが決まります」。金属を用いた触媒から有機分子触媒へ。また環境や安全性に配慮した手法に移行してきた触媒の開発は、社会に不可欠でますます期待が高まる領域です。「化学の研究は、灯台のない海に灯台をつくること。光を照らせば船がたくさん集まってきます。すると船がたくさんの魚を獲って行ってしまいます。だから常に新しい灯台を作り続けなければならないんです」。“新手一生”をモットーにする山本教授。定石を自ら創っていく研究は、今日も行われています。有機合成に広く役立つ分子性酸触媒の設計と開発総合工学研究所長、分子性触媒研究センター長やまもと  ひさし    山本 尚教授[専門分野]有機化学、合成化学、生体関連化学 [研究テーマ]反応有機化学、合成有機化学、不斉合成、錯体有機金属触媒、生体機能関連化学分子技術まで踏み込んだ設計が不可欠。常に“新手一生”でオンリーワンを探し出すこと。有機化学山本教授が「私の宝」と称する研究者の皆さん。21

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