幸友18
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が減らされたりするため、初摺に近い作品ほど絵師の意向が反映されているといえる。つまり、摺られた時期によって同じ作品でも違いが見られるというのが浮世絵版画の特徴でもあるのだ。中山道広重美術館では、初摺はもちろん、同じ絵の摺り違いを多数所蔵しているため、企画展によってそういった違いを比較しながら見ることもできる。 またこのシリーズには、中山道の69宿に、日本橋を加えた70箇所が描かれているが、そのうち中津川だけは“雨”と“晴れ”の全く異なる図柄が2図存在する。つまり全体では71図で一揃いということになる。しかも、この「雨の中津川」は、世界で現存数が10枚に満たないといわれ、希少価値が高いことはもちろんだが、雨の線が、日本画で用いる胡粉で白く表現されるなど、作品としての素晴らしさも感じることができる。ぜひ実物を見てほしい作品だ。さらに渓斎英泉と歌川広重、2人の絵師の作品で構成されたこのシリーズでは、美人画を得意とした英泉と、風景の奥行きや空気感を描くことが得意だった広重の違いにも注目してほしい。それらを見比べるのも楽しい見方の一つだ。 このように、一つの揃物をとっても作品の奥深さに自然と引き込まれていく。ただそこには、浮世絵をいろいろな側面から見ていただきたいという中山道広重美術館の強い思いがあるからだ。テーマ設定や展示方法、作品解説などにその思いが表れている。 また、館内2階には体験や映像コーナー、彫りや摺りの道具などが展示されているが、なかでも模擬版木を使った重ね摺り体験コーナーは、老若男女、国籍問わず好評だという。木版画の原理を楽しく学ぶことができるので、訪れた際には一度体験してみてはいかがだろうか。江戸の文化、ファッション、土産物、旅の風俗など、庶民のための情報誌としての役割を担い、いまの私たちの暮らしにも通じる内容が描かれている浮世絵。浮世絵を楽しむ上での新たな視点に気付かせてくれる中山道広重美術館は、浮世絵初心者はもちろん、浮世絵の世界にもっとハマってみたい方にもおすすめだ。学芸係長 前田 詩織さん絵を見たときに感動を得られるのが本物の良さです。来年、当館は開館15周年を迎えます。あらためて広重や浮世絵について掘り下げて、いろいろな見方や楽しみ方を発信していきます。中山道広重美術館〒509-7201 岐阜県恵那市大井町176-1TEL.0573-20-0522(月曜日休館)http://hiroshige-ena.jpジュディ・オング 玉 木版画展美の架け橋 広重・江戸百景との競演後期 2015年11月7日(土)〜12月6日(日)花鳥風月 広重の世界―四季の移ろいとやまと歳時記―2015年12月10日(木)〜2016年1月17日(日)四季折々の風景、行事が描かれた浮世絵版画をご紹介します。歌川広重《浪花名所図会》「今宮十日ゑびす」版画体験コーナー。季節や展示に合わせて図柄を入れ替えています。特別企画展企画展けいさいえいせんごふん14

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