幸友16
33/48

内していただいた。 威風堂々とした重厚な玄関、郷愁を誘う木造建築。すぐ横には、樹齢数百年という杉や檜が立ち並ぶ。その木々は軒先にあまりにも近く、所々、軒の方が切られている。その理由は、武七氏の哲学にあるという。山の斜面に建てるには、山を削り、木を切らなくてはならない。しかし、山も海も好きだった武七氏は、できるだけ木を切らないでほしいと設計士にお願いしたという。ただ、そのおかげで奇跡ともいわれる宿が現代に残されたといっても過言ではない。「私たちは、山の食物連鎖のバランスの中に居候させていただいているのです」。建物を建てる以前から続けてきた動植物の命を絶たなかったことが、創業から82年間歩み続けることができた所以だ。四季折々に表情を変える庭には、時々ムササビの親子が顔を見せてくれるという。 平成22年、湯之島館の玄関、渡り廊下、本館が登録有形文化財に指定された。日々、使いながら後世へ残していくには相当な苦労があると察し、守り抜く秘訣を訪ねてみた。「私共もそうですが、何よりお客様が慈しんでご利用いただいているという一言に尽きると思います」。聞けば、何十年ぶりに宿泊するお客様も多いという。「当館には、何代も続けてお泊りいただいているお客様がいらっしゃいます。『親父に連れられてここへ来ていた。そしていま自分も父親になり、子どもを連れてきた。いつかは必ずと思っていたが、やっと思いを果たすことができた。当時の建物がそのままあるのが何よりうれしい』という話をよく聞きます」。 いつの時代も、お客様の想いを優しく包み込んでくれるのが旅の宿。唯一無二の湯之島館にお客様の想いが刻まれ、その一方で、宿泊したお客様一人ひとりの心の中に、それぞれの物語が生まれ育まれていく。大切な人と訪れて、物語を紡いでみたいと思わせてくれる宿だ。本館と同時期に建てられた洋館内にあるダンスホール。現在はクラブとして使われており、昭和初期の雰囲気をそのままに残す。昭和天皇・皇后両陛下が泊まられた「七重八重の間」。今上天皇・皇后両陛下が泊まられた部屋も別にあり、二代続けて皇室の方にお越しいただくことは大変貴重。竹の長押や折上天井、囲炉裏など、意匠を凝らした造作によって風情あふれる「ロビー」。湯之島館 http://www.yunoshimakan.co.jp岐阜県下呂市湯之島645番地TEL.(0576)25-4126幸友会会員、2014年11月末まで宿泊料金10%割引特典あり。※ご予約時に「中部大学幸友会会員」とお申し付けください。数あるさまざまな部屋の中でも「春慶荘」が一番のお気に入りと語るオーナーの岩田栄七氏。かつては司馬遼太郎氏が宿泊された部屋でもあり、「街道を行く」で紹介された。32

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る