幸友16
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 私が専門としている「精神科作業療法」では、集団療法を多く取り入れています。発病直後の少しの環境刺激でさえも非常に負担になってしまう時期や個別の作業能力の訓練を目的とする場合を除けば、「集うこと」がより大きな治療効果をもたらしてくれるからです。 うつ病で休職中の方々の集団療法では、上司や部下との接し方や組織での動き方などセラピストの私がアドバイスするよりずっと腑に落ちる助言が患者間でなされたりします。何より、同じ病を持った仲間としてお互いを思いやり、辛さを表現し、受け容れ合うことのできる場の雰囲気が、彼らを回復へと向かわせ力づけてくれます。ある患者さんは治療を振り返り「自分がいかに仕事だけに捉われていたかに気がついた。故郷から離れて就職したので、学生時代の仲間との交流も途絶えてしまい、気の置けない関係の人と過ごす時間を失っていた。ここで仕事の利害関係のない人と過ごす時間が貴重だった。今年は忙しくてもなんとか時間を作って同窓会に出席してみようと思う。」と語ってくれました。 人間は、さまざまな「人の集まり」のなかで育ち、自分を作り上げ、支え合い生きて行く社会的存在です。人の間で病むけれど、人の間でしか癒されないといっても過言ではないと思います。世の中にはさまざまな健康法が溢れており、個々人で取り組めるものも多いのですが、それらに「集うこと」を加えると精神的健康の増進や人生の質の向上にもつながり、その効果が倍増するのではないでしょうか。 働き盛りの中年世代は、仕事関係以外の「人の集まり」から遠ざかりがちです。しかし、目を閉じて顧みれば、思い出の中に自分を育て支えてくれた「人の集まり」がいくつも思い浮かぶはずです。幼少期の日々を彩った幼馴染の集まりや親戚の集まり、学生時代の同窓生の集まり、部活やサークル仲間の集まり。そして、それら「人の集まり」での「思い出」は、自分のこころを穏やかにしてくれるものが少なくないはずです。 米国で精神疾患の回復者の生活調査から生まれたWRAP(Wellness 「集うこと」のすすめ中部大学 生命健康科学部 作業療法学科 教授 向 文緒むかい ふみお423

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