幸友16
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期にかけて大きく世の中が変化した時代に相次いでおこなわれた。それにより、多くの名品が実業家や政界人の「数寄者」と呼ばれる趣味人の手に渡ることとなる。もともとは対や揃いであったものが、複数の蒐集家に落札されて分散することも珍しくなかったという。今回訪れた展示でも、一度は離ればなれになった中興名物の茶入「伊予簾」と、本来それに添う品である小堀遠州の書、「いよすだれの歌 色紙」が後藤家で再会した逸話がピックアップされていた。この再会は、日本のビール王と呼ばれた実業家、馬越恭平の親族のはからいによって実現したとある。実は、こうした来歴の物語には名士たちの名がいくつも登場する。文化の庇護者でもあった経済人の横顔を知ることも、茶道具鑑賞のひとつの楽しみ方ではないだろうか。 コレクションとじっくり向き合った後は、本館奥の扉を出て、総面積2,200坪の昭和美術館が誇る庭園を散策してみよう。露地の先に、ふたつの茶室が佇んでいる。ひとつは、「捻駕籠の席」を有する愛知県指定文化財「南山寿荘」である。もとの主は尾張藩の家老であり、裏千家11代家元玄々斎の実兄、渡辺規綱。江戸時代に現在の名古屋市の堀川端に建てられた邸宅で、川の流れを望むように茶室を設けたことから捻じれた形状になった。昭和10年に移築された際には、その趣を再現するために、堀川を模して池をしつらえ、水辺を見下ろすその風情までも再現した。もうひとつの茶室、十四山村(弥富市に編入合併)から移築された「有合庵」とともに、在りし日の茶席の趣を私たちに伝えてくれる。 「捻駕籠の席」は予約制で内部の見学ができ、南山寿荘や有合庵の一部は有料で茶事に利用することもできる。気軽にお茶に親しみたい方には、季節によって茶室にておこなわれる呈茶席や茶道に関する各種講座がおすすめだ。激動の時代に「数寄者」として多くの茶道具を蒐集した財界人、実業家の人生を垣間見られる茶道具の鑑賞とあわせて、日本が誇る茶の湯文化に親しんでみてはいかがだろうか。昭和美術館〒466-0837 愛知県名古屋市昭和区汐見町4-1TEL:052-832-5851http://www.spice.or.jp/~shouwa-museum/館長 柳澤幸輝さん名古屋の中心地では珍しい緑あふれる庭園で、ゆったりとしたひとときを過ごしながら、お茶の文化に親しんでいただければ幸いです。開館35周年昭和美術館コレクション そのものがたり〜2013年12月8日(日)まで(火曜日定休)昭和美術館の収蔵品がこれまでに歩んできた歴史をさかのぼり、そこから見えてくる時代の流れや所有者の運命などのドラマを紹介します。14

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