幸友16
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 茶席に用いられる道具としての意匠を備えるだけでなく、茶人たちの美意識や所有者の人生を象徴する伝世の茶道具。奥が深いゆえに難しいイメージもあるが、昭和美術館は茶道具鑑賞の入門編としてもおすすめだ。茶道具の多面的な魅力をわかりやすく伝える企画展示が、私たちを茶の湯の世界へといざなってくれる。 昭和美術館の収蔵品約800点のうち、実に8割が茶道に関連する品である。茶道具に限らず、書画の多くも茶事に関わりの深いものが揃う。なかでも「源家長筆熊野懐紙」「宇多院歌合」、「永久四年四月四日院北面歌合」の3点は重要文化財であり、文学史の観点からの価値も高いとされている。 コレクションは、年3回ほどのクールでおこなわれる企画展示で、テーマにあわせてセレクトされた数十点が公開される。選りすぐりの名品と出会えるのは、主に本館1階の展示室だ。風格ある茶入や茶碗に添えられたキャプションには、来歴や鑑賞ポイントが丁寧に綴られている。 これらのコレクションは、岐阜県出身の実業家で、米相場で財を成した後藤安太郎と、その長男であり、日本車輛の社長などの重職を歴任した後藤幸三の二代にわたって蒐集された。多くは、「売立て」によって入手したものである。大名家や華族などの美術品を売買する競売、「売立て」は、明治から昭和初美術館は、芸術との出会いの場です。絵画や工芸品の美に触れ、秘められたストーリーに向き合うひとときは、日常に新鮮な喜びをもたらしてくれるでしょう。今回は、茶道具に特化したコレクションを誇る昭和美術館で、茶の湯の世界に魅せられた人びとの物語と出会いました。4昭和美術館13

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