幸友15
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 再開発の鎚音響く地下鉄池下駅から、地域文化の発信地として注目される覚王山日泰寺の参道へ向かう途中、左手に見える美しい建物が古川美術館だ。ヘラルドグループの創業者として知られる古川爲三郎氏(1890〜1993)が、長きに渡って収集した貴重な美術品を、広く地域に公開するために寄贈。自ら初代館長に就任して平成3年にオープンした。 戦前より収集されたコレクションは、約2,800点。近代日本画を中心に、油彩画や陶磁器、工芸品などを所蔵している。なかでも上村松園や伊藤小坡による美人画、前田青邨の人物画や花鳥画は質、量ともに豊富で、コレクションの目玉となっている。また、地元東海地方の芸術家による作品が多彩に揃っていることも、この美術館の大きな特徴と言えるだろう。 美術館運営にまだサービス精神がさほど重視されていなかった時代から、ここ古川美術館では、映像関連事業の経営で培った “おもてなしの心”をモットーに、常にお客様を丁寧に迎える姿勢を貫いてきた。なるほど、入ってすぐのロビーは、サロンの風情。やわらかな色合いの大理石、ゆるやかなカーブを描く階段が、訪問者をやさしく出迎えてくれる。展示室はこぢんまりとしているが、所蔵品の上品な魅力をより引き立たせる品格ある造りだ。 館内には、1階に第1展示室と特別展示室、2階には第2展示室とAVルームが配置されている。展示室に入ると、各展示品には、作品の説明、作家の紹介、そして子どもに向けたワークシートのボードが添えられているのが見てとれる。さらにAVルームでは、日本の美術館では初めて導入されたというハイビジョン動画による所蔵品解説が鑑賞でき、作品の理解をより深められる仕組みだ。ワークショップやギャラリートーク・アーティストトークなどの催しも定期的に設けられており、「気軽に美術に触れてもらいたい」との思いを随所に感じる。 その思いは、分館である爲三郎記念館でも共有されている。爲三郎記念館では、古川爲三郎氏が百三歳で天寿をまっとうするまで終の棲家として愛した数寄屋造慌ただしい日常にうるおいをもたらし、新たな価値観や驚きを与えてくれるアートの世界。時には美術館で、ゆっくりと芸術に触れるひとときを過ごしてみませんか?今回は、日本の美をこころゆくまで堪能できる古川美術館と分館の爲三郎記念館をご紹介します。3古川美術館特別展 展示風景15

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