幸友14
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 昔は科学概論や科学論といった、科学を広い視点で捉えた入門書のような本がよくありましたが、最近ではそれがあまり役に立たないという考え方もあり減ってきてしまいました。科学全体を考えるのではなく、個々の事実を考えるように歪曲化されてきているのです。特に自然科学の本を読むときには、知識をその本から学ぶことも大切ですが、それを正しく判断することがより大切になってきます。そのためには、読者のそれまでの読書歴や知識などが大きく影響してくるわけですが、それが足りないと書いてあることはすべて間違いのないことだと思ってしまいがちです。しかし、科学はそれほど単純なものではありません。科学というものを冷静に見ていくためには、やはり科学概論や科学論などの科学を広い視点でまとめた本を、時間軸を掘り下げて読んでいくことが必要です。 先ほどもお話したように、福島の原発事故以前と以後とでは、多くの人がその意見を変えてしまいました。ですから原発関連本を読むときには、歴史的な経過で見ていくことがより重要です。具体的には、その筆者が原発事故以前に何を言ってきたのか、それに対して現在はどうなのか、ということをきちんと把握して読むべきです。幸いなことに、現在では昔の本も多くが復刻されて書店に並んでいます。原発事故後に書かれた本も大事ですが、事故前に書かれた本を読むことがもっと大事なことだと思います。ただ注意しなければならないことは、かつて原発を推進していた書物は、現在では、あまり表に出ていなくて、いま書店に並んでいるのは原発を批判していた本ばかりだということです。ですから、原発の安全性を主張していた本を読もうとすれば、図書館などに行かなければなりませんが、それでも原発関連の本を読む場合にも、過去に遡って読んでいくことが大切です。是非、現在その本を書いている人が、以前にどんな本を書いているのか、どういった内容の発言をしているのかを時間軸で見ていってほしいと思います。特に現在の原発関連本ブームは、そのように見てもらわないと間違った受け取り方をしてしまうおそれがあると思います。伊藤康彦先生の 書店では個別科学に関する本が山積みにされているが、科学を広い視点から考える書物は少ない。佐々木力の「科学論入門」は自然科学を総合的に把握するために格好の本である。この本は看護研修学校における講義に基づいているが、その聴講生の熱心さは大学での講義の受講者以上であったとのことである。私も弥富看護学校で年に1〜2回講義をすることがあるが、久し振りに勉強の機会を得た学生の授業に対する熱意には何時も感心させられる。看護師を対象とする講義ということで、物理・化学・生物学以外にこのような書物には珍しく医学や看護学も対象になっている。この本の特徴的な点は「科学技術論の医学史モデル」を提唱し、この医学の中に看護学を含めていることであろう。一読を勧めたい。著者の佐々木は「科学革命の構造」で有名なトーマス・クーンの弟子で、最近ではクーンの「構造以来の道」を翻訳出版しているので、これも一読を勧めたい。「科学論入門」 佐々木 力 岩波新書―原発関連本についても、同様の注意が必要ですね。―それでは科学の本を読むときには、どのような読み方をすればよいのでしょうか。29

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