中部大学教育研究20
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えば「どちらからいらっしゃったのですか?」「こちらにはどのくらい滞在されているのですか?」などから導かれる社交的な対話や、施設・商品の案内などが含まれる。このカリキュラムを、最新の言語教育方法論(例:ペアワーク、アクティブラーニング、タスクベース学習、協働ワークなど)に基づいて作成した。必要な言語能力を習得するための、アクティブラーニングに基づいたペアワーク例、それに用いるカードやその他の教材を作成した。コロナ禍がなければ国際学科3年次のゼミ学生が、このカリキュラムを実際に使って学習する最初のグループになるはずで、彼らの経験とフィードバックにより、カリキュラムはさらに改善できたはずであった。このカリキュラムを構成するにあたっては、外国人と「どのように」交流するか、彼らが「何を」期待しているのかを知ることが重要である。社会的相互活動と文化が及ぼすいくつかの重要な側面を考慮した。例えば、ヨーロッパ人やアメリカ人がアジア人と異なる点について、学術的な視点から興味深い解析と考察を述べている『TheCultureMap』(Meyer,2014)が参考になる。また『異文化間の理解と誤解~なぜ日本人とアメリカ人は、お互いに不作法に見えるのか』(Politefictions”坂本・直塚,2004)は、アメリカ人と日本人の間の文化の違いから生じる摩擦に対して、非常に実践的なアドバイスを提供している。例えば「質問をする」という項目では、アメリカ人は社交の場で、その相手に興味があり、大切に思っているということの証しとして、数多くの質問をする傾向がある、と指摘する。他方、日本人はアメリカ人の矢継ぎ早の質問に圧倒され、戸惑ってしまう。実際、アメリカ人の尋ねる質問には、答えることが非常に難しいものもある。ところが、日本人はそこですべての質問に答えることができないと、それをストレスに感じてしまう。坂本らによれば、アメリカ人はそもそも、全部の質問に応え、一つひとつ丁寧に回答してもらうことを期待してはいないと指摘している。またアメリカ人は詮索に満ちた冷やかしをすることも社交的な会話の一部と考え、日本人はそれを「大きなお世話だ」「無礼だ」と感じてしまうとされる。Politefictions”で述べられているもう一つの興味深い例を示すと、アメリカ人は、グループ内の会話であっても常に一対一のコミュニケーションを取りたがるとされる。そのグループの中の特定のひとりに対して、あたかも個人的に語りかけるような調子で、目を合わせて話す。他方、日本人はグループ内で発言するとき、全員に語り聞かせるように話す。ひとりの話者がグループ全員に語る、というのが日本式の会話であると指摘する。さらに、カリキュラムで取り上げたもう一つの社会的相互活動と文化に関するトピックとして、スポーツと「バリアフリー」の取り組みがある。日本でのオリンピック開催が計画されていることから、スポーツにおける異文化交流について調査した二つの研究論文(Higa,etal,2016a,2016b)についても参考とした。今回の英語教育カリキュラムのプロジェクトでは、スポーツトレーニングにおける習慣の違いや、「学生アスリート」の役割に関する考察を行い、スポーツを通じた観光客との交流を促進した。また、「バリアフリー」の取り組みについてのお国柄の違い(Higa,2001)も、インバウンド観光を考える上で非常に重要な項目と考える。上述の文化社会的な相違点は、良く知られたものであるかもしれないが、例えば接客の際にどのように実践するかはそれほど簡単ではないだろう。そもそも観光客と何をどのように話すかについては、学生にとっては思いの外難しい作業であり、その具体的な方法を知ることは非常に貴重なスキルである。これらの調査研究は今も進行中で、今後も新たな知見を発表してゆきたい。7まとめ本稿では、近年のインバウンドツーリズムの進展を契機に、観光・旅行業などの関連業種への就職を視野に入れたキャリア教育の可能性について検討してきた。その結果、観光学+外国語+観光実務についての知識や能力がインバウンドツーリズム関連業種に必要であると考えられる。他方、本学国際関係学部では、インバウンドツーリズム業種を含む観光・旅行業への進路を希望する学生はそれなりに多いものの、特に観光学・観光実務関連の科目や資源が不足していると思われるため、その部分に演習やセミナー、研修などの小規模なプログラムをいわば「パッチ」のように当てるという手法を提案した。また、外国語もインバウンドツーリズム業との関連は強いが、観光学や観光実務と結びつける必要があるものと思われ、そもそも外国人客と何を話すのかといことについては、それなりのトレーニングが必要と思われる。これは、前述の「全国通訳案内士試験」の問題にも表れた「文化翻訳」の必要性とも関連するだろう。一方でインバウンドツーリズムの現場で近年表れた機械翻訳機の使用と外国語教育の対応についても考察した。インバウンドツーリズムの実務者は機械翻訳機そのものを良く理解し、使いこなせるようになること中部大学教育研究No.20(2020)―76―

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