中部大学教育研究20
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バウンドツーリズムが盛んな都市である。表5にあるように、外国人旅行者の利用が90%を占める「ゲストハウス」経営者のレクチャーや、外国人客の多いドミトリー宿泊の経験は、多くの学生にとって初めてで、新鮮であった。また行政機関(市役所)からのレクチャーも、学生のイメージからは抜け落ちがちな、行政側の、インバウンド観光を俯瞰しようとする視点や、海外の旅行展覧会へのプロモーション活動などの情報は、学生の視野を拡げてくれるものと思われる。もちろん、高山市を訪れる外国人客の特性やバックグラウンドなどについての教員による学術的な視点からの説明も同様であるだろう。事例に挙げた研修においては行わなかったが、各種の実地調査を行うのも理解を深める方法の一つであると考える。このような現地研修と並行して、各種セミナーを開催することも試みた。例えば2019年10月30日には「インバウンド観光業のお仕事」として本稿共著者の一人であり、中国からの観光客の添乗員をしている王の業務について、学生がインタビューを行う形式のセミナーを行った。同様にして、中部国際空港で働く卒業生などを呼んでのセミナーを開催している。なお、観光実務関連では、筆者の一人である王が勤務する旅行会社に依頼し、添乗員経験を積む「インターンシップ型実習」も企画したものの、志望者がなく実施できていない。また現在、本学部では観光学関連のテーマで行う3~4年の専門演習が開講されていない。カリキュラムに多くの観光・旅行関連科目が無くても卒論執筆につながる専門演習があれば、そこを拠点にインバウンド観光関連の知識を得ることが可能であろうし、むしろ専門学校などではあまりない、大学ならではの学習が可能になるともいえるだろう。このような発想から、2020年3月には、試行的に課外の「インバウンド観光ゼミ」を3年生1名、卒業生1名、大学院生2名、教員1名で3時間程度実施した。内容は「中部地方のインバウンドツーリズム」で、筆者のうち澁谷と王がテーマ発表を行い、それについてディスカッションを行うという手法を採った。一回きりの試行であったが、「はじめてインバウンドツーリズムについて体系的に学べた」など参加した学生の評価は高かった。このようなゼミナール形式は、通常の科目に比べインバウンドツーリズムのような単一のテーマについて、手っ取り早く理解を深めるには良い方法であるかもしれない。このような「パッチ」によって、現行のカリキュラムで不足しているインバウンドツーリズムに関する観光学と観光実務に関する知識や経験を補う方法は、採用可能な現実的対応であると考える。これに加えインバウンドツーリズムに関するテーマの専門演習が開講されていた場合、よりその効果は高まるものと推測される。5機械翻訳時代の中国語教育を如何に構築するか5.1国際学科の中国語カリキュラム次にインバウンドツーリズム業に深く関連する外国語教育について検討したい。近年、国内外の観光地で、「機械翻訳機があれば外国語ができなくても十分対応できる」という見解を聞くようになった。確かにとりあえず客側の欲求が伝われば良く、込み入った議論にはなりにくい観光業の現場では、それで十分なのかもしれない。本章では筆者の一人である和田がそのような時代に語学をどのように教えるべきなのかについて、中国語を例に考察する。国際関係学部においては、中国語は英語に次ぐ「第1.5次外国語」とでも呼ぶべきカリキュラムを備えていて、初習者を対象とした「中国語A」から、中国語検定や漢語水平考試の上位レベルの級を目指す「資格中国語」に至るまで、受講可能な科目数とレベルについて言えば比較的充実しており、国際関係学部の外国語教育の特徴の一つとなっている。国際関係学部の学生の中には、ホテル・観光業、販売員、公務員など、外国人居住者、旅行者と外国語によるコミュニケーションを取ることが求められる業界への就職を希望する者が毎年、一定以上存在している。そのような学生の要望に応える中国語科目として、アドバンスト中国語科目「ビジネス中国語」がある。この科目では、週2回の授業において「基本的な文法事項の再確認と簡単な作文練習」「ビジネスの現場における基本的な表現の口頭練習」を行っている。5.2機械翻訳時代の到来と問題の所在特許関連文書などに特化した高価な翻訳ソフトはいざ知らず、2000年前後から登場した無料の翻訳サイトやアプリケーションによる珍妙な翻訳結果をたびたび目にしてきたこともあって、「中国語の機械翻訳は役に立たない」というのが一般的なイメージだったのではないだろうか。しかしながら、Googleが2016年11月にニューラルネットに基づく機械翻訳(NeuralMachineTranslation)を、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、日本語、韓国語、トルコ語の計9言語を対象に提供を開始するなど、この数年来で飛躍的な進化を遂げている。また2018年7月、ソースネクスト社から発売された国際系学部におけるインバウンドツーリズム業種に対応する教育プログラムに関する考察―73―

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