中部大学教育研究20
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ホテル英語」など観光業と関係のある授業を受講したが、十分な情報が得られていないように感じたとのことであった。また3~4年必修の専門ゼミでは観光学を専門とする教員がいなかったため、ヨーロッパを中心にしながら英語を用いた広いテーマの研究が可能なゼミナールに入って、イギリスのインバウンドツーリズムについて卒業研究を行っている。ただし就職活動では、折からのコロナ感染拡大で観光業方面の見通しが立たず、別の業種の企業から内定を得ている。このAさんの例からは、①インバウンドツーリズムへの関心が国際関係学部における進路として学生が考えうる選択肢の一つであること、②そのような関心を持った学生にとって観光系科目がやや不足気味であること、③また観光・旅行業界は、国際関係学部の学生にとって数ある進路の一つでしかないことが理解される。また本格的に観光・旅行業の進路を考える場合に、国家資格である「国内旅行業務取扱管理者」の資格を取ることは一つの近道であるとも考える。この資格は旅行業法+約款+国内旅行実務の知識を問うもので、これを学ぶことで、観光実務の一端に触れることができるだろう。また海外を含む旅行業務用の資格として「総合旅行業務取扱管理者」試験も存在し、「国内」に加え海外旅行業務の知識も問うものであり、よりインバウンドツーリズム業種に近い内容であるかもしれない。4国際関係学部におけるインバウンド観光教育プログラム:観光学・観光実務への対応4.1各種資格試験と現行科目の組み合わせこのような学生側のニーズと学習の状況、および本学や学部における教育資源の状況を勘案し、どのような教育プログラムが可能かつ有効なのかについて考察を加えたい。おおよそ「観光学+観光実務」分野と「外国語(英語・中国語)」に分けて論じることとし、本章ではまず、「観光学+観光実務」分野について考察を加えたい。ここまで述べてきた「必要な能力」「国際系学部の関連科目」「学生の状況」を基に、本学国際関係学部のカリキュラムを例に、学年ごとの科目履修と、前述の資格試験、外国語科目の受講モデルについて検討した。本学部において既習外国語である英語の科目は1年春、英語に次いで重要と思われる中国語は1年秋から履修可能であり、日本のインバウンドツーリズムの状況を考えるに、可能ならば英語・中国語の両者の履修があってよいであろう。また、英語、中国語、その他の言語の学習のため、2年の春もしくは夏休みに語学研修に参加する方法も可能であろう。その上で、認知度の高い世界遺産検定を受験する「世界遺産から学ぶ」を2年秋に受講するのが適切と思われ、この機に次年度春学期に行われるキャリアセンター資格講座「国内旅行業務取扱管理者試験」の案内があると良いだろう。3年では開講があるようであれば観光学を専門とする教員の専門演習を受けつつ、英語の発展科目「観光ホテル英語」などを受講する。これはあくまでもモデルであるので、科目履修や研修参加のタイミングは任意であり、固定しようとするものではない。4.2「現地研修」および「インバウンドツーリズムゼミ」の試行ここまでの考察より、やはり気になるのは、インバウンドツーリズムに特化した科目や、観光学、観光実務に関わる科目が少ないことである。しかしながら国際関係学部は観光学部ではないため、そのような科目を大幅に増やそうとするのは現実的ではないように思われる。また卒業生の就職状況を見るに、観光学部出身ではなくとも観光・旅行業界に入ることはできている。そのため、もともとあるカリキュラムを大きく改造することは行わず、インバウンドツーリズム関連の短い現地研修や、セミナー開催など、既存カリキュラムや学科行事に結び付いた、いわば「パッチ」を当てるような方法を考え2018~2019年にかけて試行した。以下にその例を挙げて検討する。例えば表5は、2018年2月に岐阜県高山市において試行した「インバウンドツーリズム研修」の日程表である。2泊3日の研修で、大学院生も含め4名の参加があり引率は教員1名(澁谷)であった。この研修は、インバウンドツーリズムに関心のある学生に、「見たことのない」インバウンド観光(業)の姿を見せることが目的である。これはここまでに述べてきたように、学生側の観光業イメージが曖昧であるためである。幸い高山市は名古屋から近く、全国的に見てもイン中部大学教育研究No.20(2020)―72―表5岐阜県高山市におけるインバウンドツーリズム研修事例

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