中部大学教育研究20
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認定試験」の出題内容を手がかりに考察を加えたい。これらの試験は官公庁や公的な性格を持つ団体によって、外国人観光に関わる者の能力について試験によって評価・認定するものであり、インバウンド観光に関わる者の持つべき資質についての一つの手がかりになるものと思われる。「全国通訳案内士試験」は、報酬を得て通訳案内(外国人に付き添い外国語を用いて旅行に関する案内を行う)を行う全国通訳案内士として必要な知識と能力を判定するための試験である。いわば日本語の出来ない外国人観光客をアテンドする際に必要な能力を示すものであるとも言え、インバウンドツーリズム関連業種に必要とされるものだろう。「通訳」ということで、そもそも外国語能力を問う資格というイメージもあるが、この試験科目を見るならば(表1)、外国語(100点)と通訳案内実務(50点)という通訳パートよりも、日本地理(100点)、日本歴史(100点)、一般常識(50点)と実は外国語以外のウエイトも高い。また外国語については、英語だけではなく、中・韓・仏・西・独・伊・ポルトガル・露・タイ語での受験も可能である。もちろん実際の試験時間は他の科目が20~40分である一方で外国語は120分あり、また二次試験では外国語の翻訳能力もさらに問われるが、範囲の広い日本の地理・歴史もけっこうな負担であるとも言われる。またこの試験の外国語の問題内容を見ると、「通訳案内」に必要な能力の一端が見えるように思われる。平成28年の韓国語の試験を見ると、日本語の「忌み言葉」「出初式」「スマートインターチェンジ」「恵方巻」を韓国語の文で説明する問題が出題され、単なる言葉ではなく、いわば「文化の翻訳」が求められる。他方、国家資格ではないものの、「インバウンド実務主任者認定試験」は近年行われるようになった検定試験である。主催の全日本情報学習振興協会のサイトによれば、インバウンド観光ビジネスに関わる者の必須の知識を問う試験であるとされている。表2はその問題構成であるが、全国通訳案内士試験よりもさらに「知識」が重視されている。全部で11課題分野が設定されているが(表2)、第1課題の「観光総論」、第2課題「インバウンド総論」にはじまり第10課題の「インバウンドとテーマ別観光まちづくり」に至るまで、「インバウンドビジネス」などの観光実務関連の事項と「ニューツーリズム」などの観光学関連の事項が中心である。反面、外国語関連の項目は、第11課題の「テーマ別選択問題」の中で6つある選択問題の3つだけで、英語、中国語、韓国語の問題が選択可能である。このような検定試験の内容からは、インバウンドツーリズム業種に必要な能力は、①外国語がまず挙げられるものの、それだけではなく、②歴史、地理も含む観光知識および観光学の成果、③観光実務関連の知識も必要とされるであろうことが推察される。また「全国通訳案内士試験」の例に見るように、外国語を通じ日本文化を翻訳して伝えるような、観光人類学でいう「文化仲介者」の役割も要求されるように思われる。3国際系学部における観光教育の可能性3.1学生側の観光・旅行業界就職へのニーズ冒頭に述べたように、国際関係学部の学生の中には、進路として観光・旅行業界を志望する学生が見られる。私見では、近年インバウンドツーリズムの伸長に伴い、外国人客相手の観光・旅行業を志望する学生が増えつつあるように思われるが、実際にはどのような状況なのであろうか。筆者らは、2019年度秋学期に、1年生必修のゼミ科目「国際基礎演習」において、学科の協力を得て簡易的なアンケートを実施し、国際関係学部1年生の観光・旅行業志望の状況や知識、業種イメージについて調査を行った。アンケートは113名から回答があり、このうち半数を超える62名が観光・旅行業に関心を持っており、少なくとも低学年の時点では、依然として進路の一つと中部大学教育研究No.20(2020)―70―表1「全国通訳案内士試験」一次試験科目表2「インバウンド実務主任者認定試験」問題構成

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