中部大学教育研究20
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1はじめに今年度の新型ウイルス感染拡大によってほとんど見られなくなってしまったが、昨年までは日本を訪れる外国人観光客は増加の一途をたどっていた。政府の「観光立国推進基本計画」では、2020年には4000万人に到達することを目標とし、2019年度は3188万人に達していた。このような影響は中部地方も例外ではなく、飛騨高山などの観光地や、観光流動の結節点となる大都市を中心に、主として華人系旅行者とヨーロッパ系旅行者によるインバウンドツーリズムの波が押し寄せていた。その結果、一部の地域では受け入れ側の人手不足が見られ、これに対応する人材が求められつつあった。他方、著者らが所属する国際関係学部においては,旅行業など観光・旅行業関連の進路を希望する学生が比較的多く、「旅行業務取扱管理者」などの国家資格取得を目指す者も多い。観光・旅行業界は、上述のインバウンドツーリズムの進展に伴い、次第に有望な就職先になるように思われる。しかし本学の場合、ツーリズムを専門とする学科や専攻はなく、キャリアセンターの資格講座以外には、このような学生のニーズに応えられていないといえる。なお中部地方の他大学にも観光学部・学科は存在しない。また観光・旅行業界を希望する学生は、実際のところその実情をよく知らないまま希望する者が非常に多いように感じられる。これら学生には、観光に関する漠然とした憧れや、「楽しそう」とのイメージのみで希望する場合も多い。観光実務に関する知識も不足しがちである。本学においてこのようなインバウンドツーリズム関連業種に必要なコンテンツを持つのは、外国語教育と国際関係学をカリキュラムの軸とする国際関係学部であると思われる。そこで学部専門科目にある外国語科目や、「世界遺産を学ぶ」等の観光関連科目を利用し、研修・実習等で観光業界の実質的知識も得られる教育プログラム案を作成することで、学生のニーズに応え、今後発展が予想されるインバウンドツーリズム関連業種への進路を目標とするキャリア教育としてはどうかと考えた。本稿では、この一環として、まずインバウンドツーリズム業種に必要な能力が何かという点と、国際関係学部における学生のニーズやこのような教育に利用可能な資源について検討する。その上で観光学および観光実務の知識、そして外国語に関してどのような内容が必要となり、いかなるプログラムが可能かについて考察する。2インバウンドツーリズム業種に必要な能力インバウンドツーリズムに関わる職業に就く者にどのような能力が必要かについては、議論の分かれるところであるだろう。そこで、観光庁主管の国家試験「全国通訳案内士試験」の出題項目と、近年一般財団法人全日本情報学習振興協会の主催で始まった「インバウンド実務主任者―69―国際系学部におけるインバウンドツーリズム業種に対応する教育プログラムに関する考察澁谷鎮明*1・和田知久*2・ヒガ,ハワードケン*1・王蛍雪*3要旨本稿では、国際系学部におけるインバウンドツーリズムと関連業種に対応するキャリア教育の可能性について検討した。これら業種に必要な観光学、観光実務に関する科目は、国際系の学部には少なく、これを補うために、現地研修やゼミナールを実施することを考えた。外国語については、実践的な語学スキルとともに、文化を翻訳する技術、近年利用されることの多い機械翻訳への対応の重要性が指摘された。キーワード国際系学部、インバウンドツーリズム、観光教育、語学教育*1国際関係学部国際学科教授*2国際関係学部国際学科准教授*3国際人間学研究科博士後期課程大学院生

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