中部大学教育研究20
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この遠隔授業の場合では、第8回目の授業時と、学期末直前に、「不正」に関する教師側の考えと評価のスタンスを繰り返し学生に伝えている。教師が何をどう観察し、最終評価は何が結集されるのかも伝えている。「自分の力の形成のために学習する」という一貫性を教師が保ち示すこと、学習やトレーニングから逃避しようとする気配を見つけては助言し、助言しては観察し、ということを繰り返すことは必要であろう。春学期当初、ブレンド型授業から対面授業部分をなくすと「何ができなくなるか」を考えがちであった。「見えない」関係でどのように学習の動機づけをしたらよいのか、と悲観的になりそうであった。しかし、遠隔授業でしかできないこと、対面授業ではしづらく遠隔授業ならしやすいことは何かを考えて見ると、「人目を気にしないこと」「何を失敗しても恥ずかしくないこと」や「人のペースに合わせなくて良いこと」等、遠隔授業にも大きなメリットがあるということに気づくことができた。竹内(2020)は、「オンライン英語授業の留意点」として、「対面授業をそのままオンライン授業に移行しない」ことや、学習者全員をコントロールして、同じことを同じ時間内にさせるような「既成概念を捨てる」ことをあげている。「活動の場合なら、所要時間がみな同じである必要はなく、早く終えた者が次の活動に移るようにすれば選択肢は拡がる。」とも述べている。本授業では、学生が学習にかけた時間には大きな差があることが明らかになっている(7.1参照)。しかし、学生が他の学生のペースに影響されることなく、自身のペースで納得がいくまで学習をすることができるメリットは、次のようにSRFに記述されている。「今日はLectureNotesとPronunciationLessonsに時間がかかり、いつものような速さでは進めることができなかった。しかし、その分一つ一つに集中して臨むことができた。」(第13週授業)これまでの授業受講習慣や「授業とはこういうものである」といった固定概念があればあるほど、不慣れな要素も多い新たな授業環境には入りづらいものである。この遠隔授業で最も重視したことは、1つの授業の1つのまとまりとして構成することであった。具体的には、5分から15分程度のレッスンを細かく用意し、気づかないうちに集中時間を少しずつ延ばしていくような構成を目指し、「先生が監視しているからしかたがなく課題をする」のではなく、「これなら自分でできるかも」「次も自分でやってみよう」と挑みやすい授業を構成しようとした。本学には1996年度から2013年度まで「情報英語」(前身は「実用英語」)という科目が開講されていた。インターネットをフル活用したこの授業は、各自のペースでプロジェクトを企画・実践しいくプロジェクト型授業、グループで調べ学習に取り組み発表するといった協調的学習、プレゼンテーション学習の先駆けでもあった。開設当初からこの授業を担当していた小栗が経験したことには、操作・手順の説明方法からメール対応方法、課題の評価方法などが含まれているが、そこで得た最大の教訓は、受講者の数だけ学び方と学びのペースがあることであった。非同期型の遠隔授業では、「いつでも」「どれだけでも」「何度でも」学習に時間をかけられる自由さがある。しかしこれは、2つの危険性と隣り合わせでもあることを認識しておかなければならない。1つ目は「各自のペースで進む」=「早く課題を終わらせて楽になろう」というように、早く課題を終えることだけが受講の目標になってしまうケースである。2つ目は操作手順の説明を日本語で読むことも容易ではなく、英語に対する拒否感を一人で乗り越えられず、学習にたどり着くまでに投げ出してしまうケースである。こうした2つのケースを解決するのには、やはり適切な観察とタイムリーな助言・指導が不可欠であろう。教師は学生の様子をLMSを通して観察することは大いにあっても、それが監視になってしまわないように工夫しなければならない。教師の役割は監視をし、罰則を与えることではないからである。学生の様子を見守りながら、彼らにとってベターをもたらす次を考えるのが教師の役割である。様々な学習ハードルを、いろいろな高さに調整していくことも、教師の役割である。コミュニケーションツールを使って相互理解を図ることも、教師の役割である。どの時点でどのようなツールを選び、どのようにコミュニケーションするかを考えるのも、教師の役割である。時に脅威にも感じるメールの数を「相互理解のチャンス」の数に転換させるのも教師の役割であろう。とはいえツールを選び損なったり、教授法を一歩誤ったりすると、教師も授業準備・実践が苦悩でしかなくなってしまう。そうしたことを防ぐためにも、教師同士が情報交換をしたり、経験者からノウハウを聞いたりできる関係性は専任・非常勤の枠を越えて必要で、教師が孤立して苦しまないようなサポート体制は常に必須であろう。また、ツール選択や操作といった技術面のサポート体制は教育技術に詳しい人材で構成されるべきであるし、ツールを活用した教授法の選択や授業方法については、そうした領域の専門性が高い人材で構成されるべきであろう。よく考えてみれば、これは対面授業を改善しようとする場合と、変わりがないのではないであろうか。次の授業を楽しみにできる授業。集まる価値がある授業。ブレンドから遠隔への最適化―65―

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