中部大学教育研究20
39/168

2009)、この手法の導入により、授業を行っている自分の様子だけでなく、授業を受けている学生の様子にも注意が促されている様子が伺える。また、公開直後のリフレクションにおいても、自らの授業に対して改善策を挙げるときには、その前段で、『6.学生の学修結果』への言及が見られることが多かった。このように、学生の学修結果をモニターすることが、授業の改善を目指すきっかけになっている様子が改めて確認された。以上のように、自らの授業のリフレクションは、授業改善に多くの利点をもたらすことが、本研究でも示された。しかし、表6の「(a)公開前」と「(b)公開直後」に出現した授業の評価視点を比較すると「(b)公開直後」に挙げられた改善策は、類型を問わず、「(a)公開前」の授業評価の視点の範囲内で生じる傾向が見られた。このため、授業サロンに参加し、自らの授業に対してリフレクションを行うことは、普段の生活では見えにくかった部分への気づきを促すが、授業スタイル自体が大きく変わるわけではないことが示唆された。5.5リフレクションの内容とピア・コンサルティングの内容との違い続いて、自分の授業に対するリフレクションの内容と、ピア・コンサルテーションの内容の違いを検討するという目的3のために、類型別の「(c)ピア評価」の結果に着目した。評価視点の出現パターンについては、5.2で述べたため、ここでは、改善策の出現パターンに注目した(表6)。まず、グループのメンバーから受け取った「(c)ピア評価」の中で、具体的な改善策を提案されていた教員は、14名中14名(100.0%)であり、類型を問わず全ての教員が何らかの形で改善策を提案されていた。また、『2.教授』の中の<⑤教材提供>と<⑥知識伝達>において、具体的な改善策が提案されやすかった点はリフレクション時と変らないが、特に<⑥知識伝達>において改善策を提案される教員が多かった(⑤が14名中6名で42.9%、⑥が14名中12名で85.7%)。<⑥知識伝達>は、ティーチング・ティップスのような汎用的な教授スキルに言及するものだが、<⑤教材提供>は教科特有の内容により深くかかわる視点である。この結果からも、専門分野の異なる教員でグループを構成し、授業内容ではなく授業運営に着目した見学を行うという授業サロンの仕組みが、うまく機能している様子が伺える。また、ピア・コンサルテーションのその他の特徴として、『4.活動促進』の中の<⑫能動的活動促進>に関連する改善策の提案を、『2.教授』の中の<⑥知識伝達>に次いで多い14名中8名(57.1%)の教員が受け取っていたことが挙げられる。以下に、具体例を示した。C4教員への提案:例題は何人かの学生を指名し、前に来させて板書させるか、解かせたい。指名した発言や板書は、学生に緊張感を与え、真剣な学習姿勢を期待するためです。【能動的活動の促し】B4教員への提案:少人数なので、先生が学生側に回る、あるいは討論のようなものなどがあっても良いのではないかと思いました。授業の中盤あたりで集中力を持続することにもなるのではないでしょうか。【能動的活動の促し】このような、授業スタイルを教授から学習へと大きく転換させる方向での改善策の提案は、授業を行った本人のリフレクションの中では特に目立つものではなく(14名中3名、21.4%)、この点が、ピア・コンサルテーションの独自の効果であると考えられる。なお、アクティブ・ラーニングにつながるような、<⑫能動的活動促進>に関連する改善策を、「(c)ピア評価」の中で提案している教員は、14名中8名(57.1%)であり、一部の教員が同種の提案を繰り返しているわけではない。また、2014年度、2016年度、2018年度と授業サロンへの参加年度が新しくなるほど、この視点からの提案を行う教員は増えており、授業サロンに複数回参加している教員も、参加メンバーが行っている授業について、インタビュー時に次のように述べている。A1教員:どちらかというと一方的な授業があったりして。一方通行。最近は、交互に行きなさいという、アクティブラーニングですとか、そんなようなふうに移行しましょうという形で言われているので、最初はやっぱり一方通行の先生が多かったんですけど、最近はすごい学生の反応を見たりとか、このように、教授から学習へという大学教育の方向性を意識する教員は増えてきており、それが同僚の授業を評価するときの視点に反映している様子が伺える。一方、自らの授業に対するリフレクションでは、新たに得られるものよりも、今あるものを失うことを恐れる「現状維持バイアス」が影響し、大きな変容を伴う改善策の提案が行われにくかった可能性がある。5.61~5年後の変容最後に、授業サロンの参加後に生じた長期的な変容について検討するという目的2のために、類型別の「(d)1~5年後」のインタビュー結果に着目した。表6では、授業サロンへの参加後、自分の授業を実際に改善していた場合は●(類型内で1名のみの場合は○)が、改善を企画しているが、未完了である場合には△が示されている。まず、個人に起こった長期的な変容のパターンを検討するために、5種類の類型別に、「(a)公開前」とFD研修としての「授業サロン」の短期的・長期的な受講効果―27―

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る