中部大学教育研究20
34/168

するカテゴリーは2種類あり、1つは授業運営の選択を制約する『5.授業環境』、もう1つは授業運営の変容を動機づける『6.学生の学修結果』であった。本研究の44種類の概念の定義と具体例、その上位概念である18種類の下位カテゴリー、そのさらに上位概念である6種類のカテゴリーについては、表2および表3に示した。また、本文中では、カテゴリーを『』、下位カテゴリーを<>、概念を【】で示した。具体例は斜体で示し、前後を含めて引用する場合には、該当する概念と関連する部分に下線を引いた。以下では、これらの6種類のカテゴリーが示す内容について説明を行った。(1)授業運営(基盤)への評価視点:授業運営の基礎となる、教員の資質の程度を評価する視点である。教育に対するポジティブな姿勢である<①熱意・意欲>、教育を行うときの基礎になる<②経験値>、授業に規律と秩序をもたらす<③管理>、快適な授業環境を作り出す<④雰囲気醸成>の4種類の下位カテゴリーを含む。このカテゴリーは、授業内コミュニケーションの基盤として機能する。(2)授業運営(教授)への評価視点:教員から学生に向けたコミュニケーションの活性化の程度を評価する視点である。学修教材の選択・提示に関する工夫である<⑤教材提供>、教授方法に関する工夫である<⑥知識伝達>、授業で得た知識を外の世界につなげる工夫である<⑦知識拡張>の3種類の下位カテゴリーを含む。このカテゴリーは、教員自身のアウトプットに着目したものであり、教員が学生に何をどのように伝えるかに焦点を当てている。これは、教員の機能について考える際の最も基本的な視点であり、本カテゴリーに含まれる内容は、授業実践に関する既存の研究や(e.g.,中井・中島,2005;田口他,2011)、池田・戸田山・近田・中井(2001)が、魅力ある授業を演出する方法として挙げているティーチング・ティップスの項目などに、概ね対応する内容になっている。(3)授業運営(交流)への評価視点:教員と学生の双方向的なコミュニケーションの活性化の程度を評価する視点である。学生への教員始動の働きかけとしての<⑧注目・確認>と、学生からの意見・質問に対する教員からの返答としての<⑨フィードバック>の2種類の下位カテゴリーを含んでいる。教員と学生の間で発問と質疑応答が活発化することは、学生の参加度や、学習効率を向上させる上で有効であることが指摘されており(中井・中島,2005)、一方向的な教授から、学生主体のコミュニケーションへの移行につながる、重要なステップになると考えられる。(4)授業運営(活動促進)への評価視点:学生から教員に向けたコミュニケーションの活性化の程度を評価する視点である。穴埋めや黙読などの受動的作業を行わせる<⑩複写作業促進>、問題を解く練習や、小テストなどの反復練習を行わせる<⑪反復練習促進>、創造的で能動的な活動をさせる<⑫能動的活動促進>、授業時間外の学修活動を行わせる<⑬授業外学修活動促進>の4種類の下位カテゴリーを含む。なお、溝上(2014)は、アクティブラーニングを「一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り超える意味でのあらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く、話す、発話するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う(P.7)」と定義している。そこで、『4.活動促進』のカテゴリーは、教員が授業に関連して学生に行わせているアウトプット活動を広く含むものとした。(5)授業環境への評価視点:授業を取り巻く環境を評価する視点である。配当学年、種別、形式などの<⑭科目の制約>、学生の数、学生の基礎力、学生間に存在する個人差などの<⑮学生の制約>、設備・機材、外部基準、授業スケジュールなどの<⑯運営の制約>の3種類の下位カテゴリーが含まれる。このカテゴリーは、教員の授業運営の方法自体を扱ったものではないが、授業運営の選択にさまざまな形で影響すると考えられる。例えば、学生主体の授業運営への移行を難しくする(あるいは容易にする)要因としても言及されている。具体例を以下に示す。B4教員:少人数なので、アクティブラーニング方式を採用してもよかったのだが、【⑮学生の制約】B2教員:初めての演習と言うこともあり、全てを教授してしまっているが、学生が主体的に学習するような授業方法を取る必要があるのではないかと思っている。【⑭科目の制約】(6)学生の学修結果への評価視点:授業での学生の反応や学修成果を評価する視点である。学生の学修に対する取り組み姿勢である<⑰授業態度>、学生が授業から得る成果である<⑱学修成果>の2種類の下位カテゴリーを含む。このカテゴリーも、教員の授業運営の方法を直接扱ったものではないが、自己制御の観点から見た場合、自分の教授行動を適切な形で変容させるためには、自分が行った教授行動だけでなく、それが学生にもたらす結果についても正確にモニターし、自らの行動を調整する必要がある。また、教授行動がもたらす結果を学生の学修行動と結びつけて意識することは、教授から学習への転換を促す上で重要な役割を担うと考えられている(e.g.,中井・中島,2005;田口他,2011)。以下に、『6.学生の学修結果』が、教員の授業内の行動と結び付けて語られている具体例を示す。B3教員:授業が淡々と進むので、退屈に感じる学生もいる中部大学教育研究No.20(2020)―22―

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る