中部大学教育研究20
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巻頭言コロナ禍で考える高等教育における教育研究2020年は新型コロナウイルス感染症が世界的に拡がり、中部大学では新学期がひと月遅れで全面遠隔授業として始まり、感染拡大の様子を見ながら、オンラインと対面を混在させた形で授業が続いています。この異常事態だからこそ高等教育における学びの在り方、教育研究の在り方を考える機会となっています。中部大学は海外の大学や機関と協定を結び、学生は欧米はじめ、アジア、オーストラリアへ留学する機会も多くありました。学びもグローバル化しているといえるでしょう。今回のパンデミックはグローバル化の波に乗って世界に拡がっています。しかし、グローバル化は今に始まったわけではなく、歴史的に見ればこれまでにも形を変えて存在したことを感染症との関連で見ておきましょう。古くは紀元後2世紀まで遡るとローマ帝国の領土拡大によって起こった天然痘の流行、14世紀にはモンゴル帝国の拡大に伴う東西交通の発展が引き起こしたヨーロッパでのペスト(黒死病)の流行、16世紀の大航海時代に引き起こされた新大陸での感染症の拡がり、そして200年前の大英帝国の拡大に伴ったインド発のコレラの拡がり(1817~1823)、100年前第1次世界大戦中のスペイン風邪(インフルエンザ)の大流行(1918~1920)。そして、それぞれのパンデミックが収まるたびに社会は大きな変革を遂げてきました。さて、今なお進行中のコロナ禍は、収束後にどんな変化をもたらすことになるでしょう。中部大学では、もともと導入していたLMS(ラーニング・マネジメント・システム)を増強し、さらに新しいシステムも導入して遠隔授業の環境を整えました。学生の圧倒的多数はインターネットが当たり前に存在する世の中に生まれたデジタルネイティブであり、さらにソーシャルメディアを使いこなすソーシャルネイティブと呼ばれるZ世代(ジェネレーションZ)です。遠隔授業に使われるオンライン環境には即座に対応し、感染拡大に伴って要請された自粛規制もあって、学びに割く時間が増えて、与えられた課題をこなしていくという状況が生まれました。また、大人数の対面授業ではできなかったこと、たとえばチャット機能を用いて教員に質問したり、オンラインでグループ学習ができたり、プレゼンをしたりということも生まれました。アンケートから明らかになったことは、学生はこれまで以上に自ら学ぶ時間が増えたということでした。こうした事例から、私はニュートンのアンヌス・ミラビリス(annusmirabilis(miraculousyear))を思い浮かべます。ニュートンは22歳の時ペストが流行したため、自宅で自粛生活を送る中で、庭のリンゴの木からリンゴが落ちるのを眺めて、万有引力の着想を得たというのが伝説です。ニュートンは結局1年半自宅で過ごしたそうですが、彼の偉大な多くの研究成果は、すべてこの間に芽生えているのです。コロナ禍を機に、日本における高等教育が変わるかもしれません。本来あるべき学びと探求の姿を取り戻し、自由な学びの中で知的衝動に駆られて一人思索に耽ったり、あるいは教員や仲間と議論する。そして学びの仲間がグローバルにつながる中で、地球社会において自然科学、人文・社会科学そして先端的な科学技術を駆使して、自由に生きられる『あてになる人間』を育てあげることこそが真の高等教育となることでしょう。2020年12月中部大学学長石原修

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