中部大学教育研究20
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1はじめに2008年に大学設置基準が改定され、FD(FacultyDevelopment)が義務化されて以来、各大学では様々な種類のFD研修が実施されている。中部大学でも、2008年度に「魅力ある授業づくり」をFD活動の重点目標とし、現在では、FD講演会、全学公開授業、FDカフェ、キャリアアッププログラム、授業サロン、オンデマンド講義、Cumocなど、多様なFD研修が定期的行われている(高比良・沖・杉井・西川,2017)。なお、自己点検・評価の観点からは、このようなFD研修の定期的な実施に加え、その効果検証を行うことが重要な課題になる。そして、FD研修の受講が授業改善にもたらす効果を検討する場合には、学生による授業評価を効果の指標として用いることなどが有効だと考えられる。しかし、国内の研究では、FD研修未受講の統制群を設けてFD研修の受講が授業改善につながるかどうかを、機関レベルで系統的に検討した事例はほとんどない。また、受講したFD研修の種類と授業改善効果との関連や、FD研修の受講から実際に授業改善効果が生じるまでに必要な期間についても検討が不十分であった。そこで、著者らは、中部大学における2012~2016年度のFD研修の受講履歴と公開された学生による授業評価に基づき、FD研修の受講から5年以内、3年以内、1年以内に生じる学生による授業評価への影響(FD研修の受講効果)について機関レベルの分析を行った(沖・高比良・杉井・西川,2019;高比良他,2017)。そして、これらの分析結果から、FD研修の種類に着目した場合、情報提供型や交流提供型のFD研修よりも、トレーニング提供型、授業参観型、トレーニング提供型+授業参観型、コンテンツ提供型のFD研修で受講効果が生じやすいことが明らかになった。特に、―15―*1立正大学心理学部対人・社会心理学科教授/中部大学大学企画室客員教授*2立命館大学教育開発推進機構教授/中部大学大学企画室客員教授*3中部大学工学部都市建設工学科教授/大学企画室長*4中部大学経営情報学部経営総合学科教授/大学企画室大学IR推進部長*5中部大学応用生物学部応用生物化学科教授/大学企画室高等教育推進部長*6中部大学生命健康科学部理学療法学科教授/大学企画室高等教育推進部副部長*7中部大学大学事務局長FD研修としての「授業サロン」の短期的・長期的な受講効果-授業の評価視点からの質的分析-高比良美詠子*1・沖裕貴*2・杉井俊夫*3・寺澤朝子*4・石田康行*5・宮下浩二*6・西川鉱治*7要旨本研究では、トレーニング提供型FDと授業参観型FDとしての性質を併せ持つ「授業サロン」の受講が参加者の教育実践に及ぼす短期的・長期的な受講効果を検討するために、質的アプローチによる研究を行った。1~5年前に授業サロンに参加した14名の教員が参加当時に残した授業に対する自由記述と、フォローアップ・インタビューの結果を、グラウンデット・セオリー・アプローチ(GTA)を用いて分析した。はじめに大学教員の授業の評価視点の構造を検討し、参加者の授業実践の内容とその変容を捉え得る分析カテゴリーを新たに生成した。そして、これらのカテゴリーを使って、授業サロンに参加する前後では参加者の認識および行動にどのような違いが見られるかを検討した。その結果、授業サロンに参加して担当授業へのリフレクションを行うことは、今まで見えなかった部分への気づきを促し、授業改善への動機づけを高めることが示唆された。また、授業スタイルを教授主体から学習主体へと大きく転換させるような根本的な気づきは、ピア・コンサルテーションによって得られることが示唆された。キーワードファカルティ・ディベロップメント、授業リフレクション、ピア・コンサルテーション、高等教育

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