中部大学教育研究20
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とであり、それこそがFD活動の目標とならなければならない。そのアクティブ・ラーニングとは、学生が獲得すべき複数の知識の背景にある複数の文脈を自分の中でつなぐものであり、自分の過去・現在・未来をつなぐ知識を構築し、意味を探究するものである。しかも、それは「気がついたらなんとなくできている」ものでなければならない。教員はこのような学生の営みをさりげなく支援する者でありながら、学生と共に回転する支援者・被支援者の円環の中でつながれるものでもある(三浦2020)。教員と学生がともに主従の関係のない中動態に身を置くことにより、そこに信頼関係を築くことが可能になる。学習パラダイムにおけるFDは、この信頼関係に基づいて、学生の成長と教員の進化を実現するものであってほしい。註1)沖(2013)は、学生参画型FD(学生FD活動)の多くは、その結果がパラダイムシフトを促進し、大学教育の改善につながるものであっても、教員の授業改善のためのFD活動に学生が従事しているわけではないという理由で、これはアクティブ・ラーニングやピア・サポート・プログラムの範疇で捉えるべきものであって、FD活動の文脈で語るべきものではないとしている。教育パラダイムでは、この指摘は正しいが、学習パラダイムにおいては、学生のアクティブ・ラーニングを、これを促す教員の働きかけに呼応するものとして、新しいFD活動のカテゴリーに加えることを提案したい。そのことが教員と学生が共にFD活動に参加する契機になると考えるからである。2)本稿では、2009年度に「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」に採択された『三者協働型アクティブ・ラーニングの展開-大学院生スタッフとともに進化する“HowtoLearn”への誘い-』ならびに2014年に「大学教育再生加速プログラム」に採択された『21世紀を生き抜く考動人LifelongActiveLearnerの育成』の取組を通じて得た知見や省察に基づいてこれまでに蓄積してきた論考を再確認することになる。3)1995年に民主教育協会会長天城勲氏(当時)の肝煎りでアメリカ東海岸の高等教育機関等を訪問した際のインタビューによるもの(1996年6月20日)。また、M.I.T.においても「FDのキャッチフレーズをご存知か」と問われ、即座に“fromresearchtoteaching”と応対したところ、それは古い、今や“fromteachingtolearning”であると指摘された。パラダイムシフトの波紋はアメリカではかなりの速さで広がっていたことが伺える。筆者以外の訪問団のメンバーは岩井清治(桜美林大学副学長)、大江淳良(株式会社リクルートリサーチ取締役)、小口泰平(芝浦工業大学常務理事)、斎藤和明(国際基督教大学学務副学長・故人)、松下智之(慶応義塾大学総務部部長)、松原典宏(日本文理大学教務委員長)、森本雄司(学校法人青山学院常務理事・故人)、山田和夫(中部大学学長・故人)である(所属機関、職名は当時のもの)。なお、このときの訪問の様子は『アメリカの大学では、たった今……1996』(岩井他、日本IMOSY刊1996、非売品)に掲載されている。4)大学史の世界では学生中心の大学といえば、時間割の設定、科目担当者の選定などを学生自身が決め、時に学生自身が学長を務めたボローニャ大学をはじめ、このボローニャをモデルとしたスペイン、ポルトガル、ラテンアメリカの初期の大学を指す。他方、その一切を教員が担うようになったパリ大学、ならびにこれをモデルとした欧米の大学が教員中心の大学として世界に広がっていったとされている。5)「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム採択事業『三者協働型アクティブ・ラーニングの展開』」の導入(平成21年度)以降、育成と活用を図っている学生スタッフLA(LearningAssistant)は、近未来の教員の在り方を思料した結果、誕生したものである。教育パラダイムに軸足を置いている教員にとって、学生の学びを支援するという新たなミッションは容易に遂行されるものではないため、学生と教員の間に学びを支援する学生スタッフを置くことにした。なお、このことについては三浦(2015、2020)を参照されたい。6)Bonwell&Eison(1991b)には次のような記述がある。“Insummary,inthecontextofthecollegeclassroom,activelearninginvolvesstudentsindoingthingsandthinkingaboutthethingstheyaredoing.”ここには、「教育的活動」という文言は登場しておらず、アクティブ・ラーニングの意味をとらえやすい表現になっている。7)『7つの原則』の刊行より遡ること4年、アメリカでは『危機に立つ国家(Anationatrisk)』が発表され、従来と以降の教育改革の在り方の分水嶺となった。このレポートでは、今後の高等教育において「学習への関与involvementinlearning」がきわめて重要な概念であるとされている(Koljatic&Kuh,2001)。本稿においても、この「関与Involvement」を基盤的理念として、学生と教員の関係、能動と受動について考えていく。8)これは“TheMayonnaiseJarandTwoCups中部大学教育研究No.20(2020)―10―

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