中部大学教育研究20
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例えば、ある学習者が「なぜ、私は英語を学んでいるのか」というパズルを設定したとする。学習者は文献調査や質問紙調査、インタビューなどを通して、自身が設定したパズルに関する自分なりの理解を深めたのち、探究過程を他の学習者や教師などに発表・共有することで、その理解をさらに深めていく。現代社会では、私たちはしばしば「問題」を設定し、その「解決」を目指すように意識的・無意識的に方向付けられていることが多い。しかしこの探究的実践では、一過性の問題解決にとどまることなく、パズルを設定した当人(学習者あるいは教師)の知的好奇心に基づく長期的な探究を通して、自身の言語観や指導観の理解を深め、ひいては教室生活の質(QualityofClassroomLife)の向上を目指す点に特徴がある。学習者や教師は普段目の前の実践(学習や指導)に追われ、意外なほどに自身の素朴な疑問を探究する機会が与えられていない。一度あえて一歩「引いてみる」(stepback)ことで自身の学習や指導の意味を問い直すことに探究的実践の意義があると言える。このまま熱く研究の話を続けると、どれだけ原稿があっても足りない。ただ一つ言えることは、ここに記した私の探究的実践の理解は、英国滞在前にはなかったものであるということだ。Hanks博士との定期的なミーティング、探究的実践を生み出したDickAllwright博士との4時間に及ぶ対話(写真2)、そして当該分野を代表する研究者であるSlimani-Rolls博士やMiller博士らとの英国での出逢いがなければ、生涯をかけて探究したいと考えている「探究的実践」への強い思いを抱くことはなかっただろう。その意味で、この時期に私を快く送り出してくださった関係者のみなさまには頭が上がらない。3.2大学での様々な経験集中的に研究を進めるかたわら、Hanks博士のご厚意により、滞在期間中には様々な経験を重ねた。大学院生向けに教授陣が各自の専門について話すリレー講義(私も3月にゲスト講義を担当した)、大学3年生(foundationcourseがあるため日本でいう4年生)向けの卒業研究の授業、教育実習を控えた学部生向けの英語指導法に関する授業に参加するなど、教師や学生の振る舞いを実際に観察しながら英国の大学教育を体験できたことは今後の大きな糧となった。他にも、国内外から著名な講師陣を招いた各種セミナーに10件以上参加した(写真3)。また、英国を拠点に世界で活躍する教育学部の研究者らとミーティングを行い、談笑したことも非常に良い刺激となった。12月には、教育学部が主催する行事において、クラリネット奏者として教職員バンドの楽器演奏に加わる機会も得た。滞在中には、Hanks博士とともに、実践者研究に関するウェブサイトの構築を進めた(図2)。さらに探究的実践に関心を抱く世界の30余名の研究者が参加するメーリングリストを作成し、SNSを用いて関連情報を発信するなど、研究ネットワークの構築を進めた。滞在期間中に築いた人脈は、今後の研究を進めるうえで大いに役立つと確信している。中部大学教育研究No.20(2020)―140―写真2JudithHanks博士(左)とDickAllwright博士(右)とともに写真3実践者研究に関するセミナーでの研究発表(リーズ大学にて)図2滞在中に開発したウェブサイト(https://www.fullyinclusivepr.com/)

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