中部大学教育研究20
153/168

本センターには救急患者は年間約8万人弱搬送されるそうだ。ERでは大変高額な薬剤管理の指紋認証システムなど、安全管理に関する設備などの説明もあり、学生は興味津々であった(写真9)。ICUでは、患者のベッドサイドにソファが設置してあり、患者の家族がくつろぎながら重症患者を見守る場面を見て、日本との違いを感じた。看護師の服装や髪形も(ロングヘアー、ネックレス、マニキュアあり)自由度が高く、学生はとても驚いていた。筆者らも「日本ではありえないね」と苦笑した。ちょうど日本人の女性看護師が勤務中で、少しお話を聞くことができ、将来国際看護で活躍したいと思っている学生にとっては貴重な機会となった。バースセンターの見学は、どの学生よりも筆者(横手)が楽しみにしていた。まず年間4500件という分娩数に、一同驚いた。「こんなに分娩があったら受け持ち実習に困らないだろうなあ」と母性看護学の教員としてはうらやましかった。その80%が無痛分娩ということにも驚いたが、ローズマリー師長の「一人ひとりのお産を大切にする」という信念は、日本と共通だと思った。ちなみに、日本の無痛分娩率が約6%だと伝えると、逆に師長が「どうやって産んでいるの?」と驚き、学生たちは国による医療者の認識の違いをも実感していた。<9月9日>プログラムの現地コーディネーター、担当者、通訳者、ホストファミリーはいずれも教育的で優しい方ばかりで、安心して研修期間を過ごすことができた。出国まで心配していた台風も日本を過ぎ去り、あとは無事に帰国するだけ…のはずだった。しかし、長いフライトから解放されて成田空港に降りた途端、この研修で最大の難関、「成田事件」が待ち構えていた。荷物を受け取り保安検査場をクリアして出てみると、乗り継ぎ便も何もかも「全便欠航」という表示と動くことすらできないくらいの人だかりに面食らってしまった。とにかく学生たちに、はぐれないように注意し、筆者(横手)は日本航空のフロントに2時間以上並び、筆者(荒川)は学生と待機しつつ情報収集と日通旅行の担当者に連絡を取った。結局、中部国際空港までの乗継便は目途がたたないため、キャンセルして払い戻し手続きを行った。東京駅周辺のホテルを予約したり、近くの親戚宅に宿泊させていただいたりした学生もいたが、電車・バス・タクシーいずれの交通手段にしても、成田から数時間脱出できないため、教員を含めて一部の学生は腹をくくって、成田空港内で寝袋をもらって一晩過ごした。「災害看護のようだ」と明るい学生たちに、逆に救われた。日本国内なので怖さはなかったが、男子学生は1名のみで(教員以外は)若い女子学生ばかりだったので、交替で仮眠したり、コンセントを確保して充電し連絡手段が途切れないようにしたりした。中部大学サービスで加入していた海外旅行保険には「航空機遅延費用」が付帯されており、後日、成田から帰宅時の交通費やホテル代・飲食代が補償されたことはありがたかった。4おわりに帰国から1か月後に開催した研修報告会では、学生は現地の様子や各自の学びをPowerPointにまとめて、学科の教員や後輩たちの前で立派に発表し、一回り大きくなったと感じた。事後レポートからも、学生がホームステイ先で小さな失敗をしながらも現地と人に少しずつ慣れ、社会文化的な差異を実感しながらこそ、看護と英語の実践的な学習ができたことが分かった。こうした実績から、2020年度もほぼ同日程、同プログラムでの催行を計画していた。しかし、参加者募集説明会開催の直前、新型コロナウイルス感染症がアメロサンゼルス看護研修―135―写真9ERの師長に質問する学生写真8St.FrancisMedicalCenterの正面玄関で

元のページ  ../index.html#153

このブックを見る