中部大学教育研究20
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の課題に対して、個人的に評価とコメントをつけてフィードバックを返すしか選択肢はなかった。再度、同じ状況になるとすれば、同じことはしないだろうが、あの状況では、何とかやるしかないと考えた。教員ならごく自然なことで、多くの教員が同じような想いでこの状況に対峙していたのではないだろうか。この「異文化コミュニケーション論A」でも、毎週LMS上にあげられる約70件の700文字前後のエッセイに対して、可能な限り、2日以内に評価とコメントを返却した。図8は、提出された700文字のエッセイに対しての筆者のフィードバックの一例である。だいたい400文字前後で返答した。コメントの最後に10点満点(X/10)で評価を示した。図8の学生は非常に素晴らしいエッセイを書いたので、10点満点中13点の評価点を獲得した。この方式については、次の節で説明する。このフィードバックは学生からの授業コメントを読む限り、非常に肯定的に受け止めてくれたようだ。筆者もこのコメントを繰り返している間に、対面授業より学生一人一人をより身近に感じたこともあった。提出されたエッセイを読みながら、一緒にその学生の顔写真をコンピュータ画面上で開くことが親近感を助長したのかもしれない。この素早い一人一人に向けたフィードバックに関しては多くの学生がコメントした。以下に、いくつか紹介する。・すべての課題に評価だけでなく一言コメントが添えてあったので、そのコメントを読むことで次の授業も頑張ろうと思った。・忙しい中、先生からの評価とコメントをしてくれるのがとてもうれしかったです。・課題の評価やコメントを毎週してくださった事が、モチベーションの向上に繋がりました。・不安ながらに出したレポートも先生は毎回コメントをつけてくれたり、良い点数をくれたりと、私は嬉しい気持ちになりました。それが私の自信にもなりました。最初は苦手意識を持っていた文章も慣れてくると楽しくなりました。・時には先生に迷惑をかけてしまったこともあって、それは申し訳なく思っている。自分の課題が良くない時には丁寧にコメントをしてくれたことには感謝をしている。4.9加算方式の評価従来の試験では一般的に目標点(満点)である100点に対して、そこからどれだけ遠かったか、あるいはどれだけ不正確であったかということで「減点」することにより評価を与える。できないことに対するペナルティーが100点からの減点である。しかし、本来試験とは、教員と学習者ともに、どこの理解が難しかったのかなどを確認するための「診断テスト」(diagnostictest)であるべきであり、また、試験を受けることが学習の動機付けの一助となるものであろう。特に、今回のような緊急事態下の授業毎の小課題は、評価というより、次の授業への動機付けとしての役割は大きい。よって、できたことに対して点数を積み上げ、基本的に学生への鼓舞を目的とする「加算方式の評価」を採用することとした。筆者の課題に対して、期待以上のエッセイが返却されれば、満点である10点を超えて11点、12点をとることも可能とした。これはもともと、英語教育における「国際英語論」の考え方を応用したものである。国際英語論では意味が通じるかどうかが問題であり、発音や文法が多少不正確であったとしても、コミュニケーション上、十分な「国際汎用性」があれば減点すべきではないとする。特に非母語話者が母語話者のように完璧な英語を話し、書くことはほぼ不可能であり、それを求めること自体が意味のないことであるという考え方に基づく。目標はあくまで「自分が設定する可能な限り高いレベルの汎用性のある英語を操ることである」とすれば、いつまでたっても母語話者のような発音や完璧な文法で英語を操れない自分を責めることも、途中であきらめることもない(塩澤2016)。現実的で非母語話者学習者に寄り添う、新しい考え方である。「異文化コミュニケーション論A」の授業でもこのような発想に基づき、できないことを減点するのではなく、可能な限りできること、理解したことに対して加点することとした。その結果として、満点である10点を超える評価を得る者もいた。この方が、学習者の動機付けを刺激し、次に繋がる評価となったことは明らかである。彼らからは以下のようなコメントがあった。・次も頑張ろうという意識の向上につながったと思います。・加算された分の嬉しさが確実にあった。たとえ満点を取っても、あの一点が欲しかったら次はどう回答しよう、というように、どこが間違いでどう“いけオンデマンド型遠隔授業の活性化―109―図8課題へのコメントサンプル

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