中部大学教育研究20
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である。しかし、これをスライド中心のオンデマンド教材で実現することは難しい。だが、遠隔授業で学んだことを身近な人間(親しい友人や家族)に話したり、やって見せたり、教えることで、このような主体的・参加型の学習スタイルが経験できる。だが、授業以外で、学習者自らがこのような行動をとるとは考えづらいので、課題とするしかない。外発的な動機付けによる学習行動の誘発であるが、これが肯定的な経験となれば、内発的なものにも変化することも期待できる。これをきっかけに、家族や友人と遠隔授業で学んだことを共有し、議論することも可能となると考えた。図6は、国や民族での違いばかりではなく、全ての人間の間で起こるコミュニケーションは異文化間コミュニケーションである、という考え方を理解するための簡単な実験である。指を組み左親指が上か、右親指が上か、それはなぜか、などと家族間で考えてもらう課題であり、それを上手に説明しているビデオがある。学習者らにはこのビデオを視聴してもらった後、家族を相手に同じような実験をして、それを確認し、課題として報告してもらった。さらに、家族間の対話の臨場感を提出課題に持ち込むために、文字ではなく、音声ファイルとして筆者にLINEを使って送ってもらうこととした。このような課題を課すことにより、「討論」、「体験を通した学習」、「他人に教える」状況などが必然的に生まれることを狙っている。図7は、「異文化コミュニケーション教育」を扱う授業で使用したスライドである。体験的、発見的な学習方法がどの程度有効なのか、家族を相手にやってみよう、と促すスライドである。これは課題ではなかったが、授業の一環として、学習スライドの中に入れた。異文化コミュニケーション訓練で最も大切なことは、異文化の違いの背景や原因を自ら発見し、(疑似)体験的に理解することである。以下の実験の1つ目は、対人距離の実験である。自分の顔を家族の1人に近づけ、相手がのけ反ったところが、対人距離の限界であることを理解するというものである。2つ目は「お城」を家族に描かせ、それが西洋のお城か、日本のお城か確認するというものである。同じ「城」の話をしていても、互いの経験(文化)が異なると別のイメージを持っているかもしれない。これがコミュニケーションがスムーズに進まない原因になるかもしれないということを、体験的に気づいてもらうことが狙いである。3つ目は、異文化適応能力である「自己修正」の難しさを行動や感情のレベルで体感してもらうための実験である。普段と異なる行動をしてもらい、違和感やその難しさを実感するという課題である。オンデマンドのスライド中心の授業のみではこのような学習形式は不可能だが、家族となら体験的に学ぶことができる。家族との笑いや違和感の伴った学びの機会は絶好の参加型の授業になりうる。このような課題を課すことによって、学習者が深く関わるParticipatoryTeaching(アクティブ・ラーニング)が可能となる。これらの課題に対する学生からのコメントは少なかったが、肯定的なものが2つあったので紹介しておく。・おかあさんに指を組んでもらったら、親指の位置が私と違っていて驚きました。ビデオでも言っていましたけど、家族の中でも異文化ってあるのだとわかりました。・先日、コンビニで並んでいたら、前の人が床の線に視線をやって、私をにらんできました。ソーシャルディスタンスを促していたのでしょう。対人距離ってあるんだと実感しました。4.8素早いフィードバック4月に手元に届いた本学からの遠隔授業に関する文書には毎回課題を課すように指示されていた。これは同時に毎回それに対してフィードバックが必要であることを意味する。実際、筆者は延べ200名前後の学生に対して、春学期中に毎週300通ほどのフィードバックを返した2)。自分で決めたことだが、正直これには閉口した。真面目にフィードバックを返すとなると、他の仕事に手が回らない。しかし、学生、とくに不運な1年生のことを考えると、他の教員同様、一人一人中部大学教育研究No.20(2020)―108―図6自分の体験の中から答える図7家族で実験してみよう

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