中部大学教育研究20
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9)偏見10)差別11)内なる国際化12)異文化コミュニケーション能力とは13)異文化理解教育14)復習と課題提示15)まとめ1つのトピックについて、1回の授業で完結する。通常の対面授業であれば、上記の授業に加えて学期に2回ほどの大きな課題と定期試験がある。今回は講義を短縮版とし、定期試験、「内なる国際化」は割愛し、本来なら別々に扱う「偏見」と「差別」を一回の授業で扱った。授業後に毎回、課題としてエッセイの提出を課した。授業形態は上記のようにオンデマンド型の遠隔授業である。本学のLMSであるCoursePowerを用いて、パワーポイントで作成した20枚前後のスライドを授業予定日の4日前までに提示した。同時に履修者のLINEグループ上にその旨を知らせた1)。各スライドには2~3分で筆者が音声で解説を添付し、学生は筆者の補足説明を聴きながらスライドをめくり、自分のペースで学習を進める。そのまま聞き流せば30~40分で全て見終わるが、各スライドにはウェブページへのリンクや小さな課題などがあり、実際にはスライドを読み終わるには、ほとんどの学生が90分以上を要していたようだ。実際、課題のエッセイの執筆まで入れるとこの授業に関して2~4時間ほど勉強する。今学期は本学では正式な授業評価を行わなかったが、非常勤先でよく似た授業に関して学習実態の調査をしたので、これを参考にすると、そこでの1回分の受講に対しての学生の学習時間は1~2時間が28%、2~3時間が48%、3時間以上が20%、1時間未満が4%であった。2時間以上学習していたものを合計すると68%である。筆者の予想より多くの時間をかけて授業に取り組んだようだ。その後、学習者はそのトピックに関連した700文字前後のエッセイを、2日後までに提出することになっている。この課題の提出によって出席確認としていた。4回以上未提出(80%未満)により単位を落としたものが4人いたが、残りの学生は皆、期限内に全ての課題を提出した。LMS上に投稿された課題は筆者が1人1人目を通し、400文字前後のコメントを加えて可能な限り2日以内にフィードバックを返した。以上が授業の一連の流れである。さて、授業活性化の工夫であるが、その基本は学習者が何らかの形で授業に主体的に関わるにはどうするかという点であり、これを意識しながらスライドを作成し、課題を考えた。講義や資料提供だけではなく、LearningPyramidでいう「視聴覚の多様」「実践(実例)を観る」「他人とディスカッションをする」「自ら体験する」「他の人に教える」という学修定着率が高いと言われている学習活動の要素を、オンデマンド型のスライド中心の学習形態に取り入れることとした。具体例は後述する。この授業を組み立てる上で学習理論の基盤としたのは、「有意味学習論」と「内発的動機づけ」とその関連領域の理論である。「有意味学習論」(Ausubel1968)とは学習者本人にとって学ぶ意味のあること、あるいは本人の生活と何らかの形で関係することを題材として学ぶことが、学習定着率の向上に繋がるとい考え方である。英語学習を例に取れば“What'stheweatherlike?”とか“Whatdayisittoday?”などと、頻繁に小学校や中学校の英語の授業の始まりに教員が学習者に聞くことがあるが、これは学習者にとっては全く学ぶ意義がない質問であると考える。学習者は窓の外をみれば天気はわかる。当日が何曜日であるかなどということは、誰でも知っていることである。学ぶ本人にとって話したり学んだりする意義があることの方が学習効率は良いという考え方である。「内発的動機づけ」(intrinsicmotivation)とは、将来の就職のため、あるいは試験でよい成績を取りたいためなどの理由で学ぶのではなく、本人にとって楽しいから、あるいはその学習自体に意味があると考えるから学んでいるという心理状態をいう。これに対して、「外発的動機づけ」(extrinsicmotivation)は、動機の源が自分ではなく、外からの原因や刺激に起因する動機付けをいう。Deci&Ryan(1985)は、人間には自律性(autonomy)の欲求、有能性(competence)の欲求、関係性(relatedness)の欲求という3つの本質的な欲求があるとした。自律性とは自分の行動は自分で選択し責任を持ちたいという欲求であり、有能性の欲求とは、自信や自己効力感を持ちたいという欲求であり、関係性の欲求とは周囲の人や社会と繋がっていたいという欲求である。これらの3つの欲求が満たされたときに、人は内発的に強く動機づけられて行動するという考え方である。言語学習であれば、自ら選んだ言語や教材で、学習段階の上昇を実感しながら、目標言語を用いて文字や口頭で意思疎通ができる喜びを知るという一連の言語学習活動が、動機づけをさらに刺激するというものである。この考え方を異文化コミュニケーションの遠隔授業にも応用した。このような基本的な考え方のもと様々な工夫をしてみた。それらの工夫がどのように学習者らに受け入れられたかを、彼らのコメントを交えて以下具体的に紹介する。オンデマンド型遠隔授業の活性化―103―

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