中部大学教育研究20
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習であろう。日本でも文部科学省2001年の告示第51号により、大学で遠隔授業により単位を与えることが可能となったが、その最も大きな運営条件は、「面接授業に相当する教育効果を有する」授業の提供である(文部科学省2001)。その他、具体的な要素として授業終了後すみやかに設問解答、添削指導、質疑応答などによる十分な指導を行う双方向的な(意見交換の機会が確保される)授業の運営が期待されている。今回のような「緊急時遠隔教育」であろうとも、上記のように学習効果に配慮して厳しい条件の下で授業を行うことは、受講生の立場にたてば当然であろう。文字のみの資料を提供し、課題を提出させるが、フィードバックをなかなか返さないような授業運営は許されない。考えれば、他人が書いた要点しか書いてないようなスライドを誰も読みたいと思わない上、読んでも内容が理解できるとは思えない。音声で補足し、視覚的な補助やエピソードが添えられ、十分に考える時間とそれを共有できる仲間がいて、初めて学習がスムーズに成立する。単なる講義や読み物やビデオの提示などは、頻繁に学習定着率や昨今のアクティブ・ラーニングなどで引用されるLearningPyramid(理論的なもので実証されているものではないことに留意(Lalley.J.&Miller,R.2007))を引くまでもなく、高い教育効果を得ることは難しいと思われる。たとえ、対面授業と全く同じ授業をビデオクリップで提供しても、その場の空気感や質問の機会などが確保できない場合は、一方的な情報提供であり、よほど工夫がない限り、高い教育効果を上げることは期待できないであろう。ここで紹介する「異文化コミュニケーション論」という授業では、異文化間コミュニケーションに関する基礎「知識」を増やし、「文化相対主義」(文化には上下優劣はないとする考え方)にもとづく、寛容的・非差別的な「態度」を身につけ、積極的に異文化を持つ人間と「行動」することができるための基礎能力を身につけることが目標である。もともと対面授業であっても、「知識」だけではなく、学習者に「態度」や「行動」の変容を期待する授業であり、一方的な情報提供でその目標は達成できない。だが、問題はオンデマンド型の授業で、本学のLMS(CoursePower)上で主にパワーポイントによるスライド教材を提供するだけでそれが可能になるか、という点である。しかも、可能な限り学生が主体的に参加し、考え、情意面や行動面を刺激するような授業を展開することができるのだろうか。難しいと考えたが20年も前にすでに素晴らしい類似の実践があり、ヒントを得ることができた。同志社大学経済学部の教育実践事例である。同大学では2001年から、教室での面接授業を一切行わずインターネット配信でのみ授業を提供し、正課授業科目として単位を認定する「オンデマンド型インターネット授業」を開始し、大きな成果をあげている。宮崎(2003)によれば、授業評価では、遠隔授業の方が「かなり理解しやすい」「やや理解しやすい」「双方とも違いはない」を合わせると91.3%にもなったという。教員の講話、板書、教材をデジタル化して配信し、加えて質疑応答や設問回答、添削指導、受講生と教員および受講生同士の意見交換が、電子メールや電子掲示板により行われた。受講者の授業への関わりや教員とのやり取りが密であり、授業の満足度が上がったことが想像できる。ただ、システムの枠組みは分かったが、具体的にどのような点に留意して、どのような教材を作成し、どのようなフィードバックを返したかなど、授業の方法や留意点までは不明であった。だが、91.3%もの受講者がこの授業スタイルを肯定的に受け入れたことはその枠組み以外に、教員の並々ならぬ工夫や努力があったに違いないことは容易に察することができる。同じ枠組みを使ったとしても、異なる教員が運営すれば、同じだけの評価を得られたかは疑問である。重要なのは、その担当者がどのような資料をどのように提供し、教育効果をあげるために、どのような点に留意したかである。ここがわかれば、類似の遠隔授業にも応用し一般化できる。本小論に意義があるとすれば、その留意点や工夫の中身を、20年後の現在における学習管理システム(LMS)と新しい教育上の知見を利用しながら、学習効果の観点から紹介することである。以下、この授業の概要と授業を活性化させるための考え方や工夫について考察していきたい。3授業の概要と活性化の基本まず、簡単に「異文化コミュニケーション論A」の1学期間の授業内容(簡易シラバス)と1時間の授業の流れを述べておきたい。この授業は本学の英語英米文化学科の1年生全員が、春学期に履修する「指定科目」である。再履修者や他学科からの履修者を入れると70~80名の履修者がいる。春学期は、以下のようなトピックを扱った。1)なぜ異文化コミュニケーションを学ぶか2)文化とコミュニケーションの関係3)言語コミュニケーションの特徴4)非言語コミュニケーションの特徴5)カルチャーストレス・カルチャーショック6)ステレオタイプ7)異文化適応8)価値観と価値前提中部大学教育研究No.20(2020)―102―

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