中部大学教育研究20
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1はじめに2020年初頭からの急激な新型コロナウィルスCOVID-19の感染拡大により、当年春学期には多くの教員が十分な経験や知見を持たないまま、遠隔授業での授業開講を余儀なくされた。筆者もその一人である。暗中模索の中、手探り状態で授業準備を進めたが、1つだけ特に留意した点がある。それは、単なる情報提供型の授業にしない、ということである。ただし、当該の授業は英語英米文化学科の1年生全員が履修する大人数(70名超)の講義科目であるため、同時双方向型(Zoomなどを利用)の授業運営は難しいと判断した。そこでオンデマンド型の授業で、しかも、筆者の限られたIT技術の範囲内で、可能な限り学生主体で学生が自ら考え、参加するような形式の授業になるよう心掛けた。スライド作成に様々な工夫をし、学生に寄り添うような形で授業を運営した。結果的には受講者からは予想以上に肯定的に受け入れられた。本小論は、2020年度春学期実施の本学英語英米文化学科の1年生向けの授業である「異文化コミュニケーション論A」を学生参加型で運営するために、授業期間中に考えた様々な工夫、留意点、今後の課題などの記録である。筆者が独自で行った学生からの授業コメントを引用しながらその効果や課題を検証する。2基本は「面接授業に相当する」教育効果授業実践とその留意点に入る前に、遠隔授業に関する基本や留意点について確認しておきたい。2020年春からの新型コロナウィルスの急激な広がりを受け、日本の教育機関は急遽、緊急避難的に「緊急時遠隔教育」(ERT:EmergencyRemoteTeaching)(原島・ジェンキンス2020)を行った。どちらかというと場当たり的にビデオ会議システムや学習管理システム(LMS:LearningManagementSystem)を利用した感は否めない。本来ならオーストラリアやアメリカの多くの大学が、その分校に通う受講生やキャンパスに通学できない学生のために実施している「遠距離教育」(DistanceEducation)のような、学習目標とコースデザインをしっかり考えたうえで、学習効果を考慮しつつ行われるべきものであろう。あるいは、世界の大学間の授業をICTで結び、共修学習をプロジェクト型協働学習方式で行う“COIL”(CollaborativeOnlineInternationalLearning)のように、国際的な共修学習を行うことが教室内の対面学習より、より高い教育効果が期待できるときに利用するのが遠隔学―101―*1人文学部英語英米文化学科教授オンデマンド型遠隔授業の活性化-「異文化コミュニケーション論」の授業を例として-塩澤正*1要旨本小論は、新型コロナウィルスの感染拡大により余儀なくされたオンデマンド型遠隔授業「異文化コミュニケーション論A」を、可能な限り帰納的(inductive)かつ、学生参加型(participatory)で運営するために筆者が2020年度春学期に思案した工夫、留意点、課題などの記録である。学生からの授業コメントを引用しながらその効果や課題を考察する。手探り状態で授業準備を進めたが、遠隔授業であろうとも「面接授業に相当する」教育効果のある授業にするために、いくつかの点に特に留意した。具体的には「スライドは学生にまとめさせる」「音声を添える」「教え過ぎない」「身近な事例を用いる」「課題は応用問題のみにする」「体験型要素を取り入れる」「学生自身に教えさせる」「素早い個人的フィードバックを心がける」「感情を揺さぶる教材を使用する」「加算方式の評価をする」などである。「有意味学習論」や「内発的動機付け」とその関連領域の学習理論を応用し、授業スライドと課題の提示に様々な工夫をした。結果的には予想外に学習者から肯定的に受け入れられた。キーワードオンデマンド、遠隔授業、異文化コミュニケーション、アクティブ・ラーニング、有意味学習論

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