中部大学教育研究20
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1はじめにわが国の母子を取り巻く環境は核家族化や近隣関係の希薄化がすすみ、母親は育児不安やストレスを抱きやすく、産後うつや乳幼児虐待に発展するケースが社会問題となっている。厚生労働省の報告1)によると、「子育ての悩みを相談できる人がいる」と回答した母親は、2003年は73.8%であったが、2014年には、43.8%となり、子育ての孤立化は深刻さを増している。また、同報告より、妊娠・出産・産後期間の不安を解消するために必要なサービスとして、「育児の相談の場」「妊産婦同士の交流の場」を求める母親が多いことが分かっている。著者らは、乳児をもつ母親の育児ストレスの軽減をはかるには、子どもの健やかな成長発達とともに母子相互作用の促進を図る子育て支援が効果的であると考え、その具体的方策として母児のエクササイズと育児教育を融合させた「子育てセミナー」を2013年度から保健看護学科の学生スタッフとともに開催してきた。これまで開催した「子育てセミナー」の研究結果より、母親に対する効果として、産後うつのリスクが減少することが明らかになり、看護学生についても、臨地実習時とは異なった視点から継続的な育児支援の必要性について理解し、学生自身も母子と共に成長できる「共育共学」の機会であることが明らかとなっている2)3)。22019年度の新たな試み「3学科協同」本学には、保健看護学科以外にも育児教育と関連深い資格系の幼児教育学科とスポーツ保健医療学科の救急救命コースがある。共働き世帯の増加によって0~2歳児保育が増加していることから、保育士を目指す学生が乳児の成長発達のプロセスを観察し、母親への支援を体験から学ぶことは、保育技術の向上と子育て支援社会の理解につながる。また、新生児・乳幼児の救急車の出動件数は年間で279,309件で全出動の4.7%にも相当することから4)(2018年)、救急救命士を目指す学生が乳児の身体的特徴や保護者の心理を理解することは、緊急事態にある母子に的確に対応するうえで重要である。乳児の成長発達や母子間の相互作用を目の前で観察し、子育て支援のサポートを実際に行う体験は、母子と関わる職業を志す学生にとって貴重な教育の場となると考える。以上のことから、2019年度は保健看護学科の母性看護学ゼミの学生(以下、LK学生)、幼児教育学科の子―93―*1看護実習センター実習講師*2生命健康科学部保健看護学科講師*3現代教育学部幼児教育学科講師*4生命健康科学部スポーツ保健医療学科助教*5生命健康科学部スポーツ保健医療学科助手*6生命健康科学部保健看護学科准教授保健看護・幼児教育・スポーツ保健医療の多学科協同による乳児と母親を対象とした子育てセミナーの開催中山知未*1・岡倉実咲*1・山下恵*2・千田隆弘*3北辻耕司*4・繁野行宏*5・横手直美*6要旨著者らは、乳児をもつ母親の育児ストレスの軽減と、子どもの健やかな成長発達とともに母子相互作用の促進を図ることを目的に、2013年度より母児のエクササイズと育児教育を融合させた「子育てセミナー」を開催してきた。2019年度は新たな試みとして、保健看護学科の母性看護学ゼミ、幼児教育学科の子育てすくすく育て隊、スポーツ保健医療学科の救急救命コースの3学科の学生をサポートスタッフとして迎え、多学科協同による「子育てセミナー」を開催した。学生は受付係・体調確認係・駐車場誘導係などの役割を担ってセミナー運営に携わった。実際の母児の様子や、母親同士の交流場面を観察することにより、学生は、乳児の発達と母子相互作用、母親同士の交流等の重要性を学ぶと同時に、本セミナーが地域の子育て支援において担う役割についても考察することができていた。さらに、学生は講義や臨地実習とは異なる視点で、他職種との専門性の違いや連携についても実感することができ、貴重な教育の場となったことが分かった。キーワード多学科協同、子育て支援、セミナー運営、乳児、母親

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