中部大学教育研究19
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(10.4%)の全員が長期目標または短期目標の記載について、A(概ねの思考過程が理解できている)と判断された。6考察看護診断・目標設定・計画立案のすべての段階に通じて、AもしくはBと評価とされた学生は、65%程度であり、この学生たちは看護過程のプロセスの概要についてとらえることができたと考えられた。看護診断の段階では、Problem(看護診断)で60%程度、Etiology(原因・要因)52%程度、Symptoms&Signs(症状・徴候)で76%程度がAであり、半数の学生の思考過程はできていた。しかしながら、看護介入の期待される成果を記述する段階にあたる「目標設定」では、長期目標の設定で思考過程が理解できている(A)とされたものは24%であり、理解が不十分である(C)と考えられた学生は17%であった。また、看護診断として「嚥下障害」を挙げている学生57.1%のうち、この看護診断の原因・要因に合わせて、長期目標を導き出した学生は24%程度であり、記述した看護診断を基にした看護目標の設定をすることの理解が不十分であることが推測された。このことから、患者に起こっている事象と看護診断ハンドブックとの定義の合致について再確認させること、ならびに看護診断名を基に長期目標を設定する手続きについて、強調して指導する必要性が示唆された。看護診断で約23%、原因・要因で約14%の学生は、医学診断名である「脳梗塞」を挙げていた。看護診断は看護師の責任で目標に到達するために必要な看護介入を選択する基礎となるものであり、看護師が独自の看護実践の守備範囲内で対処できる問題を記述することが重要である(三上,2014)。さらに、看護診断をPES方式で記載する際に医学診断名で記載していた学生が全員、目標設定の段階でCとなるものを記載しており、問題を十分に捉えることができなくなっていた。看護独自の機能と介入を意識するように、くりかえし看護の責任範囲について指導することが必要であると考えられた。Problem(看護診断)に症状の原因・要因となるものや、Etiology(原因・要因)に症状・徴候にあたるものを記載している学生もいた。看護学生は疾患の理解に困難を感じており、教員や指導者の発問により理解に繋げる実践例を示した先行研究もある(中村ら,2014)。対象である2年次の学生にとっては専門科目の授業で学習した疾患であってもその理解は難しく、原因・要因から症状・徴候の起こるメカニズムを理解した上で患者の全体像を捉えることは困難であったことが考えられる。このことから、看護過程の事例演習においては、病態の理解を促すと共に、症状・徴候の原因について理解できるように、学習方法を検討していく必要があると考えられた。具体的な看護介入を示す看護計画の立案については、ほぼ全員が正解を導き出していた。学生は、具体的な看護援助についてはイメージしやすく、計画に基づき看護援助を実施することについては、入学直後の1年次から学習している。一方で、問題解決法である問題の特定や目標設定、解決策を導き出していく具体的な援助方法については、2年次になって学習するため、論理的思考が身についていないことが考えられた。PES方式で整理した原因・要因や症状・徴候を基にした論理的な思考過程と、病態の理解を基にした原因・要因と症状・徴候の理解への指導の必要性が再確認できた。また、PES方式を用いた問題解決手法は日常生活でも用いている方法であり、この思考過程を日常生活から意識し、理解を深めるように教育をすることが必要であると考えられた。7結論本研究により以下のことが明らかになった。1)65%の学生は看護診断のプロセスの概要は、とらえることができていた。2)理解が不十分であった項目は、記載した看護診断から長期目標を導く過程であった。看護診断の記述において、医学診断名を挙げた学生は23%おり、これらの学生の全員が目標設定の段階から計画立案まで、論理的に思考することが不十分であった。3)計画立案については、ほぼ全ての学生が解答できていたが、原因・要因、症状・徴候を踏まえた論理的に計画立案することについては理解が不十分であった。本研究では、看護学生のPES方式による思考過程の特徴を明らかにし、看護基礎教育における看護過程に関する教育の一部分について示唆を得ることができた。しかし、対象が1大学の1学年の学生に限定され、授業での教育内容にも影響を受けているため、看護学生の思考過程の特徴として一般化することはできない。今後は対象を増やして看護学生の思考の特徴の一般化をはかるとともに、本研究で得られた示唆を基にした教育内容について実践し、その効果についても検証していく必要性があると考えられた。謝辞貴重な教育資料を提供して頂いた学生の皆様に感謝申し上げます。看護過程における看護学生のPES方式による思考過程の特徴―37―

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