中部大学教育研究19
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1はじめに看護者の責務は「顕在的・潜在的な健康上の問題に対する人間の反応を診断して治療する」ことにある(ANA1980)。看護実践をする時に用いられる系統的な思考過程が「看護過程」(アセスメント・看護診断・目標設定・計画立案・実施・評価)であり、これは患者と看護師が協同で看護ケアの必要性を判断し、ケアを計画して実践し、結果を評価する一連の問題解決過程である。看護実践は高度な科学的思考に基づいて行われ、看護者はこの思考過程を理解すると同時に看護ケアの質的向上のための看護過程についての内容を深め、実践に役立てることが不可欠である。看護師養成課程においてもカリキュラムに「看護過程」が設定され、講義・演習・実習も看護過程を基盤に、多くの時間と労力が割かれている現状がある(古橋,2015)。しかしながら、実際に看護過程を学ぶ初学者にとっては、理解することに困難もあること(豊島ら,2005)、看護過程に前向きになれない何らかの印象を抱く学生も少なくない(前川,2015)ことも示されており、学生にとって理解しやすい教授法について国内外において多くの議論がなされている(Janet,2013;Lasater,2009;松谷,2015)。看護過程に関する看護基礎教育に関する先行文献を概観すると、紙上患者の看護過程の展開を記載した学生の学び(福間ら,2006)や、学生の自己評価(豊島,2003)、教育方法に関する学生の評価(石塚,2005)を分析したものはあるが、教員が学生の思考の特徴を明らかにしたものや、学生にとって理解が困難な点について教員が客観的に分析したものは見当たらず、学生の思考過程の実際を分析していくことが必要であると考えられる。中部大学では、1年次に開講される「看護学概論」、「看護学概論演習」において看護過程の基礎的な知識について教授する。2年次秋学期に開講される「看護過程演習(2単位15時間)」においては、看護過程、および看護過程の中核となる看護診断に関する概念および基礎知識の理解と、紙上患者を用いて看護過程のプロセスの実践について理解することを目的としている。さらに、看護専門職者として必要不可欠な論理的思考能力の習得を目指すことが掲げられており、単に記録用紙の記載方法を教授するものではなく、思考過程を培うことを重視して教育がなされている。学生は、1名の紙上患者を想定して視聴覚教材を用いて実際の患者像をイメージし、グループや個人で思考しながら、―33―看護過程における看護学生のPES方式による思考過程の特徴夏目美貴子*1・三上れつ*2要旨本研究は、学生の思考過程を明らかにし、看護過程の教育を検討することを目的とした。中部大学において看護過程演習を履修した学生を対象に、同意が得られた学生の期末試験の1問の解答について、記載内容や記載数などを分析した。設問では、PES方式(Problem:看護診断、Etiology:原因・要因、Symptoms&Signs:症状・徴候)で看護診断を記載し、このPES方式での思考を基に目標設定、計画立案を課した。対象者108名のうち、105名の同意が得られ分析した(回収率96.2%)。看護診断をPES方式で整理した後の目標設定の段階が、学生にとって困難であることが見受けられ、PES方式に基づいた論理的な目標設定についての教育の工夫が必要であると考えられた。看護診断に医学診断名を挙げた学生は目標設定や計画立案には繋がっていなかったため、看護独自の役割と介入についてくりかえし指導する必要性が示唆された。また看護診断とその原因・要因、症状・徴候について整理が十分でない状態で、計画立案を導き出している学生も見られた。病態像の理解に基づき看護の視点に立った患者の全体像を捉えるような教育の工夫や、PES方式で整理した情報を基に目標設定、計画立案することを強調する指導が必要であると考えられた。キーワード看護過程・看護学生・思考過程・PES方式*1生命健康科学部保健看護学科講師*2生命健康科学部保健看護学科特任教授

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