中部大学教育研究19
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4授業のインストラクショナルデザイン「学生の英語力に合った学習をさせたい」と教師は思うことだろう。しかし教材の適用化がままならない場合もある。授業は英語教育プログラムの一部であり、そこには各学期の目標や、各授業での目標があり、いつまでに何を身につけるのかといった語学ビジョンがあるはずである。複数教員が担当するプログラムで教材が選定されている場合、各教員が好き勝手に教材を「変えて」しまっては、カリキュラムの目標自体が崩れてしまうことにもなりかねない。教師が音楽や映画に造詣が深いからといって、教師が好き勝手に選んだ音楽を聞かせ、映画を観せといった授業は教材・素材を「適用化している」といえるだろうか。そうしたadditionをもしするのであっても、そうする意図、そうする目的、期待できる効果が明確でなければならないし、プログラムの総合的な目標の範囲に収まっていなければ「適用化」とは言えない。授業で「決められた共通課題」がある場合、それを終えてしまって余った授業時間をどう過ごすのかといったadditionが必要になる場合がある。そのような場合にも、学習目標に一貫性・関連性があれば、学習する側にも「それを学ぶ理由」が明確になり、学習ターゲットを一層身につけやすくなる。脈絡なく突然持ち込まれるアクティビティには、学生がとまどうこともありそれにより授業全体のバランスが崩れてしまうかもしれないことを、教師は予期していなくてはならない。図5は、インプット→練習→アウトプット→インテイク(定着)を循環的に行うことで、インプットされたことが定着していくという概念を表している。インプットから定着までの段階は、直線上に並ぶものではなく、何度も行き来を繰り返しながら、ようやく少しずつ定着していくというこのコンセプトをもとに、著者は授業をデザインしようとしている。授業は、一様には進まないものである。同じ教材を同じ専攻の学生と学んでも、その学生たちが異なり、その学生たちが集まって作り上げるシナジーが異なる以上、他の場面と同様の学習を、均一の質で実践できるとは限らない。著者のケースでは、2014年のER設立時から今年度まで、1年次はWorldLinkシリーズ、2年次はWorldEnglishシリーズ(ともにCengageLearning)を選定している。同じ素材をアクティビティに使ったり、同じメソッドで実践をしたりしても、前年度と全く同じアクティビティ展開になることは期待をしていないし、毎年度、適用化の内容も異なっている。同じ年度で同じ教材と複数クラスで使用する場合であっても、「どのクラスも同じ順序で同じことをする」ことが授業の質を上げることにはならず、授業計画の段階から、そのクラスの学生たちに合うようにどこかを適用化している。授業のインストラクショナルデザインにおいて教師が考慮に入れていることがらには、教材自体の他にも授業環境(教室機器)からクラスの人数、学生の習得状況や特性、学生自身の習得目標や志向などがある。たとえば、授業環境を考えることなくインストラクションをデザインすることは不可能である。教室は「どこでもよい」のではなく、授業の目標や内容によって、実践環境が選べることが望ましい。教室にある機器1つにしても語学を用途とする場合、また、効果的な語学実践をしようとする場合には、教室に備えるべきものは異なってくる。2013年度に更新が叶った192A(LL)、192B-C(多目的演習室)、192D(CALL)といった語学向きな教室は、語学教員らが意見と情報交換を重ねて実現した教室である。授業で使うツール(道具)はどうだろうか。ここで、簡単な例を紹介したい。すごろくのようにサイコロが必需品となるアクティビティではない場面でサイコロを使ってみると、興味深い「サイコロマジック」が発生することがある。ペアワークで順番が交互に来ることがつまらなくなってしまうことがある。あるいは、自分の発話の番が来ることを消極的に構えてしまうことがある。ペアにサイコロを渡し、サイコロの数が大きい方に発言権を持たせるルールにしたとする。たった1つのサイコロをもたせただけで、それまで発話に消極的だった学生も、サイコロで出す目では「勝ちたい」という感覚に陥ることがある。大きい数が出た場合、自分が発話をしなくてはならないのにも関わらず、英語が苦手な学生が両手を広げて喜ぶ光景が見られたりする。大きい数を出すことで優越感が得られると、いつのまにか英語力のコンプレックスから意識がそれるという例である。アクティビティの手順に、「サイコロを転中部大学教育研究No.19(2019)―20―InputOutputIntakePracticeOutputIntake図5Entirepremiseofthecyclicalblendingmethod(Ogurietal.2018)

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