中部大学教育研究19
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次から2年次までの学習の流れと習得の優先度を軸として教材を選定している。本カリキュラムでは「英語でコミュニケーションする」ための力の形成を目標としている。そこでは何が重要で何を優先すべきか、何を継続すべきかを検討し、1年次の英語達成目標を次の5点を緩やかに開始することとしている。(1)心理的バリアの軽減:英語への抵抗感や嫌悪感の緩和と英語学習への再挑戦(2)未開発能力の育成:リスニングの基礎力育成とコミュニケーション能力素地の育成(3)学習基盤の形成:擬似初心者レベルからの脱出(4)自己調整能力の育成:いかなる領域での学習にも通じる主体的な学習能力の形成(5)異文化受容力・適応力の育成:異文化間コミュニケーションに必要とされる人間力の形成2年次の達成目標には、上記の継続に次の2点を加えている。(6)言語観の育成:科目としての語学を越え、自己実現力の一助となる自身の母語や英語を含む外国語に対して視野を広げる。(7)自律的学習者の育成:授業外、単位取得後において必要な語学力を習得しようとする意欲を育てる。1-2年次はコミュニケーションのための素地づくりの期間であり、特に否定感や挫折感からの立ち直りや英語を主体的に身につけ使おうとする動機づけの重要な時間だといえる。1年次にこそ英語に対する嫌悪感や抵抗感を緩和させ、英語学習に対して希望を持ち直すような授業工夫が必要である。1年次に培う語彙力や文法力、英語を受け止めようとする姿勢、英語を自分も使ってみようとする力の形成はそれに続く学年での英語カリキュラムの基盤となる。開始した2014年度から今年度まで、1年次には『WorldLink』(ThirdEdition,CengageLearning:LevelIntroまたはLevel1)を、2年次には、『WorldEnglish』(SecondEdition,CengageLearning:LevelIntro/Level1またはLevel2)を用いており、選定理由は次の通りである。(1)テキストレベルごとに語彙レベル(使用頻度順)、語彙数がコントロールされ、テキストを通して語彙がリサイクルされている(2)テキストレベルごとに文法ターゲットがコントロールされており、後続の学習に文法力の積み重ねの機会が用意されている(3)語彙・文法を実際に応用したコミュニケーションアクティビティを構成しやすい素材が用意されている語彙学習・文法学習に用いられている例文、リスニング・スピーキング・リーディング・ライティングの場面設定やトピック・内容をきっかけに、異文化への関心を高めることができる要素も備わっている。2.2教材適用の必要性目の前の学習者の状況に応じて、教師は授業計画を練るが、コースブックをページ順にめくっていっても授業が活性化しない場合、教師はコースブック以外の素材を取り入れることがある。D・rnyei(2011)は、学習のやる気をそぐ最大の要因の1つとして、「学習当事者と全く関係・関連性がないこと」をあげ、学習の動機づけにおいて「学習のしがいがあるか否か」は重要な要素であると述べている。また、授業の活性化においてTomlinson(2010)は、学習を盛り上げようと教師が選択する教材が、単に‘cosmeticentertainment’(表面的な娯楽)であってはならないと指摘している。何らかの教材を補充する場合、それが一過性の「お楽しみ」で終わってしまわないよう教師は注意しなければならない。Tomlinson(2010)は、教材適用を次のように分類している。a.omission(除外)b.addition(追加)c.reduction(縮小)d.extension(拡張)e.rewriting/modification(修正)f.replacement(代替)g.reordering(順序変更)h.branching(発展・応用)語学の現場における状況と教材の間に、何らかのずれが生じた場合、教師は教材の適用化を図ろうとする。それゆえ教師は上記のような適用を必要に応じて行うことになっているが、その理由には次のようなことが考えられる。教材をそのまま利用した場合、a.その時点での学生の英語力に適さないb.その時点での学生の知的好奇心・関心に適さないc.習熟させたい順序に適さないd.その前後の授業内容の流れに適さないMcDounough他(2013)は、図1のように適用化の要素を表している。教師はまず目の前の学生と教材を照合し、学習・教育目的に合わせて判断をし、どのような方法(追加、除外、修正、簡素化、順序変更等)を取るべきかを選び、内容的な焦点を何に当てるべきか(言語運用練習、テキスト教材、スキル、学級運営等)を検討していくことを示している。中部大学教育研究No.19(2019)―10―

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